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【6】
「倉見さん。この金額で奥さんの方もOK出たから、お願いするよ」
「……ありがとうございます!」
「もうすぐ更新で保険料結構上がるし、どうしようと思ってたから、って。……ただ」
彼の職場の昼休み。デスクの上には奥さんの手作り弁当を開いたままだ。
彼は、妙な間を置いてわたしを見上げた。
「ウチの子、もうすぐ誕生日でさ」
「……はい」
「他でも同じくらいの金額で提示されてて、決めてくれたら図書カードでもクオカードでも好きなものくれるって言うんだよね。プレゼントがわりにって。遊園地のパスポートでもいいって。どこも厳しいんだね」
ベテランの人は、そういうプレゼント攻勢をするとは聞いていた。でも新卒で、お給料も美容院代やスーツ代、すぐ傷む靴代に消えるわたしには、大した金額は出せない。
身の回りにまずお金を遣え、と先輩たちから口酸っぱく言われていたから。
『若いんだから、見かけでまずオトさなきゃ。中身が無い分』
「倉見さんに、それをしろって言ってるんじゃないよ。……だって、ほら、他社のおばさんには出来なくて、倉見さんなら出来ることも、あるでしょ?」
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