【7】

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   契約はするけど、職場で手続きをするのは人に見られるのが嫌だから、定時後に『二人で』会いたいと言われた。  と、上司に話したけれど、もう一度契約書の書き方の注意を受けただけで、何も言われなかった。  他の支部でも、そういう『サービス』で契約を取っている女性が居ると噂に聞いたから、誰もそんなことはいちいち気には留めないのかもしれない。  居酒屋で、彼は飲んで、わたしはもちろんノンアルコールで、内容の最終的な確認をした後、言われた。 「じゃ、俺もあまり遅くなると困るから『次』行こうか」 『次』は彼が前にも来たことがあるというラブホ。誰と来たのかは知らない。  もしかしたら、奥さん以外の人を誘うのは初めてじゃなかったのかもしれない、と思うほど、迷いも罪悪感も感じられなかった。  エレベーターの中で彼が言った。 「倉見さんはこういうとこは初めて……?って、そうだよね。付き合ったこともないって言ってたもんね」  そう言った彼の顔は、普段とよく似た笑みを浮かべていたけれど、声には舌舐めずりでもするような響きがあった。
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