12人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜も私は、弄ばれ傷つけられた。
私の隣で、高いびきをかいている父の周りに、何かが忍び寄ってきた。
「誰?」
暗さに目が慣れてくると、そこには、私が居た。
あの夢の中に出てくる、私が殺した私。精神を切り離して、ひとつずつ人格を殺していった。
たくさん、たくさんの私。
父がうなされて苦しみはじめた。無数の私が、父を押さえつけて、首を絞めている。
父は、必死に私に助けを求めた。
「お父さん、私はあなたのお人形。だから、助けることはできないの。」
父はじきに静かになった。
私が殺した、無数の私は、ことが終わると、暗闇へと消えてゆく。
待って、私たち。
私は、あなた達を見捨てたわけじゃない。
戻ってきて、私の元へ。行かないで。
朝になって仕事に来ない父を心配しておとずれた同僚によって、父の死体は発見された。
心筋梗塞だった。
そして、空っぽになった私は、今、白い壁の部屋の白いベッドの上に寝かされている。
そして、今日も私は川底に沈み、たくさんの死体が水面を流れている。
ただし、それは私の死体ではなく、父の死体だ。
最初のコメントを投稿しよう!