人形の夏

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その夜も私は、弄ばれ傷つけられた。 私の隣で、高いびきをかいている父の周りに、何かが忍び寄ってきた。 「誰?」 暗さに目が慣れてくると、そこには、私が居た。 あの夢の中に出てくる、私が殺した私。精神を切り離して、ひとつずつ人格を殺していった。 たくさん、たくさんの私。 父がうなされて苦しみはじめた。無数の私が、父を押さえつけて、首を絞めている。 父は、必死に私に助けを求めた。 「お父さん、私はあなたのお人形。だから、助けることはできないの。」 父はじきに静かになった。 私が殺した、無数の私は、ことが終わると、暗闇へと消えてゆく。 待って、私たち。 私は、あなた達を見捨てたわけじゃない。 戻ってきて、私の元へ。行かないで。 朝になって仕事に来ない父を心配しておとずれた同僚によって、父の死体は発見された。 心筋梗塞だった。 そして、空っぽになった私は、今、白い壁の部屋の白いベッドの上に寝かされている。 そして、今日も私は川底に沈み、たくさんの死体が水面を流れている。 ただし、それは私の死体ではなく、父の死体だ。
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