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そんな私は、最近妙な夢を見る。
私は、川の底に沈んでいて、水面を、いくつもの死体が流れていくのだ。
それはすべて私の死体。何体も何体も、私が殺した私自身が流れていく。
目はビー玉のように何も表情は映さず、まるで人形のようだ。
青い空と私の間には、淀んだ水がある。手を伸ばして、空を掴もうとした。
すると、目の前に小さな船が遮って、漕いでいたその櫂で沈められた。
私は、川の底に深く沈んでいくと、現実に浮上する。
溜息をついた。
いったい私は、何人の自分を殺せば、この地獄から抜け出せるのだろう。
そろそろ夕飯の支度をしなくてはならない。
私は、のろのろと起き上がると、浴衣を脱いで、長袖のシャツと、ロングスカートをはき、買い物にでかけた。
川辺を歩いていると、遠くに提灯の灯りが見えてきた。
小さい頃、死んだ前のお父さんとお母さんと手を繋いで、お祭りに行ったっけ。
郷愁にひたっても涙は出なかった。泣いたところで何も変わらないことを知っているからだ。
祭囃子に誘われるように、フラフラと夜店の前を歩いていると、妙な店にたどり着いた。
そこには、白い卵が所狭しと、乱雑に置かれていた。
「おや、お嬢さんは、この店が視えるんだね。」
男とも女とも若いとも老いているともわからない店主が私に話しかけてきた。
そして、私に、卵を差し出してきた。
「この卵は夜の卵。お嬢さんの願いをきっとかなえてくれるよ。」
私は、いくらですかと問うと、店主は答えた。
「お代は要らないよ。ただしタダではないけどね?」
そう言うと、不気味な笑みをたたえた。
卵を手にした私は、本来の買い物も忘れ、家に帰った。
その卵を卵焼きにして、夕飯として食卓に並べた。
私は、その卵には手を着けずに、父にだけ食べさせた。
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