四章 呪われた村

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「だましたのは悪かったよ。おれは念写はできる。けど、だからって万能なわけじゃない。情報は自分で調査して集めないと」 彼がリヒトじゃなかったことはショックだ。でも、それ以上に、彼が犬神でなかったことが嬉しい。 (よかった。わたしの好きになった人は、ちゃんと人間だ) そう思う一方で、暗い気持ちにもなる。 猛はリヒトじゃなかった。 ということはだ。玲一が言ってた犬神のリヒトというのは、本物のリヒトのことだ。 本物のリヒトは、今ごろ、どこでどうしてるのだろう。 「じゃあ、さっきは高山さんのとこに行ってたの?」 「念写で彼女の遺体の埋められた場所がわかったから。遺骨の一部を届けてきた。 あとはDNA鑑定して、本人だと断定できれば、おれの調査は終わりだよ。警察へは依頼人が届け出ることになってる」 「それなら、あなたはもうF村に戻る必要はないんじゃない?」 「いちおう、高山チサトを殺した犯人をつきとめたい。必ず、つきとめられるとはかぎらないと、依頼人には言ってきたけど。それにーー」と言って、猛は笑う。 「この豪雨のなか、ペーパードライバーを山道にほうりだすわけにいかないだろ?」 思わず、ユキも笑った。 「ありがとう」 「信頼してもらえたなら、今度は、そっちのこと教えてもらいたいな。犬神とか、戸神から聞いたこと」 ユキは正直に話した。長い話だ。話しおわるのに三十分はかかった。 「なるほどね。戸神玲一が、犬神はリヒトだと言った。村では、その犬神があばれてる。犬神は二百年前に非業の死をとげた怨霊があやつってると」 山道に入り、ますます雨は激しくなった。 ときおり雷鳴が、とどろく。かなり近くで青白い稲妻が走り、ユキをおどろかせる。 「それのどこに高山チサトが関係してるのかな。考えられるとしたら……」と言って、猛は口をつぐむ。 「そういえば、さっき、黒岩さんが言ってた。高山さんを旅行に誘ったの、リヒトくんらしいよ」 「なるほど」 猛がだまりこんだので、車内には雷雨の音だけが、ひびく。 そのとき、ひときわ激しい稲光が目の前で起こった。豪雨の音さえ切り裂く轟音が、あたりをゆるがす。 猛が急ブレーキをふんだ。 すぐ近くの木が倒れていた。あやうく衝突はしなかった。が、道はふさがれた。 「やれやれ。これか。さっきの念写」 「当たるのね」 「当たるよ。やんなるほど」
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