四章 呪われた村

26/26
前へ
/129ページ
次へ
アユムはS市内の救急病院に搬送された。ヨウタの勤める大学病院だ。傷口の縫合手術を受けたあと、病室に運ばれた。 麻酔が切れて目覚めたのが、何時ごろだったのか。病室に時計がないから、わからない。アユムの腕時計はこわれていた。 変に目がさえて、眠れない。 ユキのことが気がかりだ。 (あいつが、おれのこと見てないのは、わかってたけど……やっぱ、しんどいよな。目の前で見てると) ユキが『リヒト』に惹かれてるのは、ひとめでわかる。そいつは怪しい、危険だと言ったところで、ユキの気持ちは変わらないだろう。 (あーあ。バカらしい。最後は、こんなもんか。幼なじみなんて、損だよなあ) 涙が出るのは、麻酔が切れたせいだ。絶対、失恋なんかのせいじゃないと、自分に言いきかせる。 雨の音が、ありがたかった。 これなら誰にも泣き声は聞こえない。 すると、そのとき、病室のドアが、すっと、ひらいた。白衣を着た医師が入ってくる。よく見れば、ヨウタだ。心配して来てくれたのか。 アユムは、あわてて涙をぬぐった。 「なんだよ? ヨウタ。おまえ、仕事中なんだろ。このとおり、たいしたケガじゃないよ」 ヨウタは答えない。ようすが変だ。 「ヨウタ?」 ヨウタは背後をふりかえる。 つられて、アユムも見た。 ドアのかげに、もう一人いる。 最初は誰だか、わからなかった。 だが、気づいた瞬間、アユムは凍りついた。 「そんな……なんで、おまえ……」 おまえは死んだはずじゃ……。 アユムは、ぼうぜんと、その人を見つめた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

293人が本棚に入れています
本棚に追加