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1
暗闇にまぎれて村に潜入した。
あいかわらず雨は激しく、ふり続いている。ときおり、ひらめく雷鳴。その光をたよりに進んでいく。
めざすのは、戸神邸だ。とにかく、玲一やハルナと合流しなければ。
しかし、ようやく、たどりついたとき、戸神邸は村人に占拠されていた。
屋敷のなかを大勢が動きまわっている。周囲も懐中電灯の光が、たくさん集まっていた。
ものかげに隠れるユキたちの前を、十人ほどの村人が通りすぎる。ギョッとした。手に、猟銃を持ってる。
「玲一は見つかったか?」
「いや。まだだ。なかは、どうだ?」
「屋敷のなかには、いないそうだ」
「まったく。どこ行ったんだ」
そんな話し声が聞こえる。
男たちが見えなくなるのを待ち、ユキは、ささやいた。
「戸神くんをさがしてる」
「戸神玲一は今現在、犬神を鎮めることのできる唯一の存在だろ。だから、つかまえて、むりやりにでも鎮めさせるつもりなんだ」
猛の言うとおりだ。
きっと、玲一は、どこかに隠れたか、逃げだした。
「戸神くん。逃げたみたいね」
「逃げたのか、たまたま外出してたか」
ユキは思いだした。
「リヒトくんの隠れていそうな場所のこと、話してたっけ」
「あの家かな? 坂上の自宅」
猛は察しがいい。さすがに探偵だ。
「うん。そこで寝泊まりしてるかもって。もしかしたら、ようすを見に行ったのかも」
「ほかに手がかりもないし、屋敷には入れない。行ってみるしかないか」
「でも、ハルナは無事なのかな?」
「戸神といっしょに出かけてたことを願おう」
「そうだね」
そもそも、なぜ、村人たちは急に暴動を起こしたんだろう。今日の夕方までは、少なくとも夜間外出しないことで安心してたはずだ。
そのわけは、坂上家に向かう途中でわかった。中学校へ続く坂道の前の十字路。一軒の家のなかから泣き声が聞こえた。血の匂いもする。
そっと近づいて、なかをうかがった。母親が小さな子どもの死体を抱きしめている。犬神にやられたと、ひとめでわかる死体だ。
「……子どもが犠牲になったのね」
それも、一人二人ではないようだ。なかは見なかったが、ほかにも、そんな家があった。
ユキたちが村を離れていた数時間のあいだに、立て続けに犠牲者が出たのだろう。
猛が言う。
「昼間、しらべたときは、一人暮らしの老人や身よりのない人しか殺されてなかった。それで、ガマンできてたんだな」
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