五章 鎮めの祭

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子どもが犠牲になって、村人の怒りが爆発したのだ。 そっと、その家を離れた。 坂道をのぼっていく。 途中で折れて、リヒトの家に向かう細道に入る。雑草だらけの、でこぼこの土の道。豪雨のせいで、ぬかるんでる。いよいよ歩きにくい。 「気をつけて。ころばないように」 猛が手をにぎってくる。 さりげない優しさが嬉しい。 しかし、そのあたたかい心地は一瞬だった。 雷鳴がひびき、夜道をてらした。 前方に人影が見えた。村人だろうか。 それにしても、いやに全身が青白く見えた。稲光に照らされたせいだろうか? 「どうしよう」 「相手は一人だ。おれが、なんとかする」 そう言って、猛は懐中電灯をつけた。 やはり、人影がある。道端に立ちつくしてる。近づいていくと、それは玲一だった。ただ、なんとなく、いつもの玲一と違う。 「戸神くん。さがしてたのよ。無事だったのね」 声をかける。 すると、玲一は、まっすぐユキを見た。 涼しげな、きれいな目。思ったとおり、とても端正だ。 そこで、ユキは気づいた。 (サングラスしてない。それに、包帯も) 素顔を見るのは、再会してから初めてだ。 「ケガしてるわけじゃなかったのね?」 「ケガ? ケガなんてしてないよ」 「ずっと包帯してたから、ケガしてるのかと思ってた」 玲一は笑った。くくくくっと、あのイヤな笑いかた。かわいそうな人だが、この笑いかただけは好きになれない。 「村の人たちが、あなたのこと、捕まえようと探してる。それで逃げてきたの?」 「へえ。村人がねえ」 変だ。玲一のようすが、おかしい。 ユキは近づいて、玲一の顔をのぞきこもうとした。 その瞬間、猛がユキの手をひいた。 「危ない!」 「え?」 おどろいて、ふりかえる。 何かが、ユキの頭上をかすめた。 猛がユキをひきよせる。そうでなければ、ユキは殺されていたかもしれない。 玲一がユキの頭上をとびこえていった。まるで獣のような速さで闇のなかに消え去る。 「……なに? 今の」 「戸神は、すでに犬神に憑依されていた。あるいは……」 玲一が犬神に? その可能性はないわけではない。本人は否定してるが、あの肝試しの夜、玲一が塚にふれていれば……。 「でも、それなら、もう誰も犬神を封じられないじゃない」 「それどころか、村であばれてる犬神が二体になった」 たしかに、危険が二倍だ。 「どうするの?」
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