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「戸神を追うのはムリだ。最初の目的どおり、坂上をさがそう」
玲一のことも気にはなった。が、奥に向かって歩きだす。
坂上家は森閑としていた。電灯が一つもついてない。少なくとも外から見ただけでは無人に見える。
猛が裏にまわろうと、指で合図を送ってくる。また風呂場の窓を利用する気だ。
猛に手をかしてもらい、屋内に侵入した。暗い。まっくらなので、何がなんだか見分けがつかない。
ユキは猛のTシャツのすそをつかみながら、ついていった。
(リヒトくん。ほんとにいるの?)
足音をたてないよう、そっと歩きまわる。
風呂場。それに続く調理場。トイレ……誰もいない。
二部屋ある和室。ひとつは人の隠れていられるスペースはない。和ダンスは引き出しの幅が狭すぎる。
もう一室が、犬神の目を見た、あの部屋だ。そこに入るときは緊張した。しかし、ここも無人だ。
フスマをあけ、猛が物置の上段に上がる。天井板をずらし、懐中電灯で屋根裏をてらす。
「誰もいない。ちょっと、調べてみる」
猛は身軽に屋根裏に上がっていった。
怖々、ユキも、のぞいてみる。
猛の言うとおり、人影はない。
でも、ずらした天井板のすぐ近くに、たくさんの足跡があった。昼間、玄関前で見た、巨大な獣の足跡だ。それに、人間の足跡も、まじってる。
猛が戻ってきた。
「ここが隠れ家なのは、まちがいない。一部だけ、ホコリが乱れて、道みたいになってる。屋根裏の窓から、この天井板のところまで」
「足跡もあるね」
「やっぱり、戸神が言ってたように、犬神化してるときと、人間に戻る瞬間があるみたいだな」
「戸神くんは、自分もそうだから、わかったのかな」
「それはわからない。でも、とにかく、今はいない。ここで帰るまで待つか、ほかを探しに行くか」
「ほかと言われても、見当もつかないけど……」
猛は思案する。
「気になってることがあるんだ。確認したいんだが、そのためには車のとこまで帰らないと」
「車? どうして?」
「この家から持ちだしたアルバムがある。ボストンバッグに入れたままだ」
ボストンバッグは車に置いてきた。
なぜ、今、アルバムなのか。でも、猛が言うからには大事なことなんだろう。
「わかった。じゃあ、一回、車まで戻ろう」
外に出ると、村のようすが、また変わっていた。どこからか悲鳴が聞こえてくる。しかも次々と。遠くで銃声がした。
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