五章 鎮めの祭

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一人になったユキは歩きだした。 村の入口まで戻らなければ。 物陰づたいに進んでいく。 それにしても、行きにくらべて、村人の数が少ない。ほとんど、すれちがうこともない。みんな、犬神退治に向かったのか。それとも……。 材木置場に続く杉並木の道まで来た。 そこからは懐中電灯をつける。 とたんに、光の輪のなかに人影が浮かびあがる。 玲一だろうか? それとも、リヒト? ユキは立ちすくんだ。 人影は、ゆっくり、こっちに近づいてくる。数メートルの距離まで来たのを見て、ユキは、おどろいた。 「あれ? ヨウタ? どうしたの? 夜勤で来れないんじゃなかったの?」 声をかけてから、ユキは気づいた。 この雨のなか、ヨウタは白衣を着てる。いくら医者だからって、あまりにも、おかしい。 「なんで白衣なの? まさか、夜勤の途中で抜けだしてきたんじゃないよね?」 ヨウタは答えない。 顔色が妙に青い。 ユキは薄気味悪くなった。 「ねえ、なんで、さっきから、だまってるの?」 それでも、まだ答えない。沈黙のまま、じっとユキを見ている。こんなヨウタ、初めてだ。 「ねえ? どっか、ぐあい悪いの?」 近づきかけて、ユキはドキリとする。 ヨウタのうしろに、もう一人、立ってる。女だ。うつむいていて、顔は見えない。でも、似てる気がする。信じられないが……。 (まさか。そんなはずない。だって……) 死んだから。 ユキの知るその人は、たった一日前に死んだ。ユキの目の前で。 女が顔をあげた。まちがいなかった。 「リンカ!」 二人が、近づいてくる。すっと、地面をすべるように。 そして、両側からユキの手をつかんだ。腕に痛みが走る。見ると、つかまれたところに歯型がついていた。 ユキは悟った。 リンカだけじゃない。ヨウタも、もう、この世の人ではないと。二人とも犬神に殺され、あやつられてる。 (次は、わたしの番なんだ……) 抵抗する気力も、わいてこない。 ただ、あまり苦しい死にかたはしたくないなと思った。 二人はユキをどこかへ、つれていこうとする。村の方向だ。きっと犬神のもとへ行く気なのだ。懐剣もないし、どうしようもない。 とつぜん、誰かが耳元で叫んだ。 「行けよ! 今のうちに」 いつのまにか、かたわらにアユムが立っていた。青ざめた顔で。 アユムはヨウタをはがいじめにして、ユキから引き離す。 「アユム……」
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