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知らず知らず、涙が、こぼれてくる。
アユムが、ここにいる。今ごろ、病院にいるはずなのに。
なぜ、いるのか?
その答えは、ひとつだ。
「あんたも……死んじゃったのね」
きっと、搬送先の病院で、また襲われたのだ。
リンカやヨウタのことも悲しい。
でも、なんだろう?
アユムが犬神に殺されたと知ったときのこの感情の乱れは。リンカたちのときとは違う。
「ごめんね。アユム……」
ふたたび、アユムが、さけぶ。
「早く! おれも、いつまで抵抗できるか」
そう言うアユムの顔に、ひとつ、歯型が浮きあがる。アユムは何かの呪縛に抗うように苦しみだした。
「はや…く……急げッ!」
アユムの手足に、続けざまに歯型が浮かんでくる。もう抵抗が難しいようだ。
「ありがとう。アユム……」
ユキはリンカの手をふりはらった。全力で、かけだす。
背後から、リンカが追ってくる。すぐあとには、ヨウタと、アユムも。
材木置場につくと、急いで車に乗りこむ。
しかし、タッチの差で、ヨウタの手がドアをつかむ。
昨日までの友達。でも、ためらってるヒマはない。
ユキは思いきってドアをしめた。両手で、全体重をかけて。ブツンと、いやな感触があった。ドアが閉まる。すかさず、ロックをかける。
あやういところで、車内に逃げこめた。
三人は車をとりかこんで、窓をたたいてくる。アユムも、もう完全に、あやつられてる。
ふるえる手で、キーをさしこむ。スペアキーだ。エンジンをかける。車の運転なんて、何年ぶりだろう? 教習所以来だ。
(ええと……ギアをドライブにして、なんだっけ? そうだ。サイドブレーキをおろすのか)
おぼつかない感じでアクセルをふみこむ。いきなり、急発進した。何か手順が違ってたみたいだ。クリープ現象で発進とかなんとか、一瞬、頭に浮かぶ。
でも、おかげで、ゾンビたちをふりきることに成功した。材木置場をとびだし、杉並木を走りだす。
バックミラーを見ると、青白い影が三つ、追ってきていた。でも、遅い。そのうち見えなくなった。
舗装道路に入ったところで、いったん停車した。今、どこに猛がいるのか、確認するためだ。
リンカたちが来てないことをたしかめて、窓をあける。
そのときになって、ゆかにころがってるものに気づいた。手指が二、三本、イモムシみたいに、うごめいてる。ヨウタの指だ。
ユキはドアをあけ、けりだした。
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