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玲一に案内されたのは、撮影スタッフが使うはずだった広間だ。そこに人数ぶんの膳が用意されていた。
すでに玲一の家族は集まってる。
玲一の祖父母。両親。叔母。
それに、あの静子という家政婦が、すみに、すわってる。
「遅くなりました」と、ひとことだけ言って、玲一は膳の前にすわる。
しかたないので、ユキたちも空いた膳の前に、てきとうにすわる。
無言のまま、食事が進む。
お世辞にも楽しい食事風景ではない。いつも、こんな感じだろうか。会話がないだけでなく、たがいに監視しあうような張りつめた空気だ。
(変な家族)
高そうな着物のおばあさんの玲一を見る目つき。なんて陰険なことか。
両親は完全に息子の玲一を無視している。その物腰には、玲一を恐れてるような印象もある。
ただ静子だけが、かいがいしく、玲一の世話をやいていた。
食事が終わると、戸神家の人たちは退室していった。去りぎわに、妖怪じみたおばあさんが釘をさしていく。
「玲一。客を入れたはいいが、どうなろうと知らんぞ。勝手なふるまいはさせんようにな」
「心得ています」
会話は、それだけだ。
言うだけ言って、老婆も立ち去る。
「わたしたち、歓迎されてないみたいだね。悪かったね。戸神くん」
ユキが言うと、玲一は笑った。
「あいつらは、おれには逆らえないんだ。気にすることはないさ」
自分の家族を『あいつら』だなんて、屈折してる。
「逆らえないって……家族なのに」
「家族? あいつらが家族なもんか」
「じゃあ、なんなの?」
玲一は言葉につまった。吐息をついて、話をそらす。
「静子さん。ごちそうさま。片付け、手伝うよ」
家族には冷淡なのに、お手伝いさんには優しい。玲一は本当に複雑な人間だ。
でも、なんだろう。
嫌いになれない。自分を呪った相手かもしれないのに。
もしかしたら、自分は同情してるのかもしれないと、ユキは思った。
「お膳、片付けるの、わたしたちも手伝います」
「あら、いいんですよ。お客さまに、そんなことしてもらうわけにはいきません」
「お客も何も、勝手に押しかけて、お世話になってるだけですから」
ユキたちは膳を持って、静子と玲一のあとに、ついていった。
古民家の厨房は土間だ。いまどき、カマドに石の流し台。薄暗い電球に照らされて、古い怪奇映画のワンシーンみたい。
でもーー
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