289人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
あわてて脱衣所に逃げこむ。
待ちかまえたように、脱衣所のガラスドアの前に人が立っていた。
矢沼は尻もちついて、しゃがみこんだ。
するとーー
「ジャッキーのやつ、どこにもおらんよ。こまったもんだ。女房に百叩きにされる」
桝前田だ。
ほっとすると同時に、ゾッとした。
じゃあ、たったいま、窓の外を歩いてたのは、誰だろう?
「マスさんーー」
ふるえながら、ガラスドアに手をかけようとした。が、矢沼の手は、そこで止まる。
ガラスドアの向こうで、桝前田が、わあッと叫んだ。
「な、なんで……おまえは、死んだはずじゃ……」
つぶやきにかさなり、獣のうなり声が聞こえた。
桝前田が、ろうかにすわりこむ。
その足を何者かが、つかんだ。
桝前田の姿は、一瞬で矢沼の視界から消えた。何かに引きずられ、ろうかの上をすべっていった。
そして、絶叫が数分、続く。
矢沼は動けなかった。
そのまま、失神した。
最初のコメントを投稿しよう!