三章 狂犬

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あわてて脱衣所に逃げこむ。 待ちかまえたように、脱衣所のガラスドアの前に人が立っていた。 矢沼は尻もちついて、しゃがみこんだ。 するとーー 「ジャッキーのやつ、どこにもおらんよ。こまったもんだ。女房に百叩きにされる」 桝前田だ。 ほっとすると同時に、ゾッとした。 じゃあ、たったいま、窓の外を歩いてたのは、誰だろう? 「マスさんーー」 ふるえながら、ガラスドアに手をかけようとした。が、矢沼の手は、そこで止まる。 ガラスドアの向こうで、桝前田が、わあッと叫んだ。 「な、なんで……おまえは、死んだはずじゃ……」 つぶやきにかさなり、獣のうなり声が聞こえた。 桝前田が、ろうかにすわりこむ。 その足を何者かが、つかんだ。 桝前田の姿は、一瞬で矢沼の視界から消えた。何かに引きずられ、ろうかの上をすべっていった。 そして、絶叫が数分、続く。 矢沼は動けなかった。 そのまま、失神した。
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