四章 呪われた村

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入浴後、ユキは玲一を待つうちに、うたたねしていた。 浅い眠りのなかに、見知らぬ風景が見えた。いや、知らないわけでもない。もしかしたら、このF村かもしれない。町並みが違うから、最初は気づかなかった。 なにしろ、どの家も、かやぶきだ。車や電柱が一つも見あたらない。道は細く、アスファルト舗装されてない土の道だ。 昔話の風景のなかを男女が歩いていた。時代劇みたいな格好をしてる。着物に風呂敷包みを背負い、笠をかぶった旅姿。 男は腰に刀をさげた武士だ。 女はその妻か妹だろうか。とても、美しい。 なんとなく、わけありのようすだ。駆け落ちか、仇討ちか。ふつうの旅人のようではない。 画面は紙芝居のように切りかわる。静止画まじりの動画の感じ。いくつかのシーンが、次々に現れる。 村の庄屋らしき金持ちの家に、男女は招かれた。だが、美しい娘を見る庄屋の目つきが不穏だ。 かぶさるように、血まみれの武士の映像。 むりやり庄屋の愛人にされる娘。 そのあとは切りかわるのが速すぎて、映像の意味を理解してるヒマがない。 黒い犬のようなものや、何かに祈る娘の姿が、一瞬、浮かんでは消える。 そして、溶暗。 暗闇のなか、何かが、うずくまっている。 白く光をてりかえす双眸で、こっちを見つめてる。 そこで、ハッと目がさめた。 誰かが枕元に、すわってる。 ユキは悲鳴をあげた。その人が、ユキの口を手でふさぐ。 よく見ると、玲一だ。しッと人さし指で、静かにするようゼスチャーする。 夢の続きかと思ったが、勘違いだったようだ。 ユキは、うなずいた。玲一が手を離す。 「話をするって約束したろ?」 「ごめん。布団に入ったら、寝てた」 ユキは、となりで寝ているハルナを起こす。あいだのフスマをひらくと、アユムはユキたちの気配で起きてきていた。 ユキたちの部屋に三人がならぶ。 すると、いきなり、玲一はタタミに両手をついた。 「どうか、助けてほしい」 ユキたちは顔を見あわせる。 そんなこと言われたって、助けてほしいのは、こっちだ。 「わたしたちに何ができるの? 呪われてるのは、わたしたちなのに」 「この村にいたら、呪われてなくたって殺される」 いよいよ物騒なことを言う。 「どういうこと?」 「この村は、アレに取り憑かれてる」 「アレって?」 夢に出てきた、アイツだろうか? でも、それは玲一ではなかったのか。
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