四章 呪われた村

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「ほんとのことを教えて。わたしたちを呪ったのは、戸神くんじゃないの?」 玲一は、ためらっている。 「言ってくれないと、わからないよ」 「もちろん話す。どこから話すか、考えてたんだよ。わかった。始まりから話そう。長くなるけど」 そう言って、玲一は顔をあげた。 「今から約二百年前。この村に、ある夫婦がやってきた。若い侍と美しい妻だったそうだ。侍は伊尾崎宗右衛門。妻は信乃と名乗ったそうだ。 でも、本名じゃないかもしれない。二人は事情があって逃亡してるみたいだった。駆け落ちか、敵討ちか、そんなことで人目を忍んでいた」 ユキは、ハッとした。 それは、まさに、さっき見た夢の内容だ。 アユムとハルナも息をのむ。二人も、あの夢を見たのだ。 「それ、さっき、夢で見た。奥さんに横恋慕した庄屋が、侍を殺すんでしょ? 奥さんは愛人にされた」 あっさり、玲一は肯定する。 「君たちも、だいぶ夢の干渉が進んでるんだな。それなら話が早い。じゃあ、その続きから話そう。 まんまと信乃を妾にした庄屋だが、それからだ。この村で恐ろしいことが起こるようになったのは。伊尾崎夫婦は、犬神を信仰してたんだ」 「犬神……そういうの、地方では、まだ残ってるらしいね。ニホンオオカミを信仰するんだっけ?」 ユキが言うと、アユムが首をふった。寺の息子だから、そういうことには詳しい。 「それは狼信仰だろ。狼信仰は、たしか東北とか関東に多いんだ。犬神は、どっちかっていうと西日本だよ。それに、犬って言っても、実物の犬じゃないんだよな」 よくわからなかったので、すかさずネットで検索する。ずらりと並ぶ項目を、ざっと見る。 わかったのは、犬というより狐。陰陽師の使う管狐に近いものだということ。人に憑依して妖しい言動をさせたり、呪術に用いられる。 「なんか思ってたのと違う。ちょっと怖いなあ」 「昔のことだから、精神に異常をきたしてる人を、狐が憑いたとか言ってたんだろ」と、アユム。 「大部分は、そうなんだろうけど。でも、それだけでは説明できない例まあるんだって。本人が知るはずないことを知ってたり。 憑きやすい家系とかあって、その力で占いや呪術で生計を立ててたって書いてある。 そうなると、もう霊媒師だよね。起源は陰陽師じゃないか、だって」 スマホをのぞきこんでたユキは、ふと気づいた。 その現象、もしかして……。
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