四章 呪われた村

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「石碑をさわると祟る力を得るのって……」 玲一は、うなずいた。 「犬神に憑かれるんだ」 それで、いろいろ納得がいった。 ハルナの見た犬のような黒い影。それが、まさに犬神だったのだ。 「ほんとに存在するの? 犬神なんて。言い伝えや迷信じゃなく」 「現に、この村では、それが起こってる。君たちの身にも。そうだろ?」 ユキは返す言葉を失った。 玲一は続ける。 「信乃が、その家系だったみたいなんだ。犬神の依りましになって、呪術をおこなう。 夫を殺された信乃は、その力で庄屋一家に復讐を始めた。庄屋が病気になり、息子が大怪我した。 そこで、かねてから信乃をねたんでた正妻が、信乃を殺させた。邪悪な祈祷師だと言って、村じゅうに、さらしものにしてね。魔女狩りに、かこつけたわけだ」 「復讐に復讐で返したのね」 「それが間違いだった。信乃の気がすむまで復讐させておけば、よかったんだ。そうしたら、少なくとも一家断絶くらいで、すんだのに」 玲一は皮肉に笑う。 「どんな方法で、信乃を殺したと思う? よりによって、犬に噛み殺させたんだ。 そんなに犬神が頼りなら、この犬をあやつってみろって。熊を狩るときに使ってた、大きな黒犬に、おそわせたそうだ。 それは凄惨な死体だったらしい。 信乃は最期まで、庄屋一家を呪いながら死んだ。末代まで祟ってやると叫びながら」 玲一は、ため息をついた。 「おわかりと思うが、その庄屋ってのが、うちの先祖だ。 信乃が死んだあとすぐ、庄屋は病状が悪化して死んだ。息子も怪我がもとで死んだ。 それどころか、ほかの子どもたちも、次々に不慮の死をとげた。 恐ろしくなった正妻が、神社の裏に塚をたてた。が、祟りは、おさまらなかった。 末期の信乃の言葉どおり、今でも続いてる」 「そんな……」 玲一は口をゆがめる。 「もともと呪術的な力を持ってた女だからね。惨殺されて、怨念が、とどまることなく増大してしまったんだ。まったく、おろかな先祖をもつと、子孫は苦労するよ」 ユキは聞いてみた。 「じゃあ、あの家系図で名前をぬりつぶされた人たちが、呪いで死んだ人なの?」 それにしては、庄屋や息子の名前は消されてなかった。 玲一は、また、しばらく考えこむ。 「……いや。違う。じつは、信乃には娘がいたんだ。伊尾崎とのあいだの子どもだ」 ユキは手帳をひらいた。メモした家系図を確認する。
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