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「石碑をさわると祟る力を得るのって……」
玲一は、うなずいた。
「犬神に憑かれるんだ」
それで、いろいろ納得がいった。
ハルナの見た犬のような黒い影。それが、まさに犬神だったのだ。
「ほんとに存在するの? 犬神なんて。言い伝えや迷信じゃなく」
「現に、この村では、それが起こってる。君たちの身にも。そうだろ?」
ユキは返す言葉を失った。
玲一は続ける。
「信乃が、その家系だったみたいなんだ。犬神の依りましになって、呪術をおこなう。
夫を殺された信乃は、その力で庄屋一家に復讐を始めた。庄屋が病気になり、息子が大怪我した。
そこで、かねてから信乃をねたんでた正妻が、信乃を殺させた。邪悪な祈祷師だと言って、村じゅうに、さらしものにしてね。魔女狩りに、かこつけたわけだ」
「復讐に復讐で返したのね」
「それが間違いだった。信乃の気がすむまで復讐させておけば、よかったんだ。そうしたら、少なくとも一家断絶くらいで、すんだのに」
玲一は皮肉に笑う。
「どんな方法で、信乃を殺したと思う? よりによって、犬に噛み殺させたんだ。
そんなに犬神が頼りなら、この犬をあやつってみろって。熊を狩るときに使ってた、大きな黒犬に、おそわせたそうだ。
それは凄惨な死体だったらしい。
信乃は最期まで、庄屋一家を呪いながら死んだ。末代まで祟ってやると叫びながら」
玲一は、ため息をついた。
「おわかりと思うが、その庄屋ってのが、うちの先祖だ。
信乃が死んだあとすぐ、庄屋は病状が悪化して死んだ。息子も怪我がもとで死んだ。
それどころか、ほかの子どもたちも、次々に不慮の死をとげた。
恐ろしくなった正妻が、神社の裏に塚をたてた。が、祟りは、おさまらなかった。
末期の信乃の言葉どおり、今でも続いてる」
「そんな……」
玲一は口をゆがめる。
「もともと呪術的な力を持ってた女だからね。惨殺されて、怨念が、とどまることなく増大してしまったんだ。まったく、おろかな先祖をもつと、子孫は苦労するよ」
ユキは聞いてみた。
「じゃあ、あの家系図で名前をぬりつぶされた人たちが、呪いで死んだ人なの?」
それにしては、庄屋や息子の名前は消されてなかった。
玲一は、また、しばらく考えこむ。
「……いや。違う。じつは、信乃には娘がいたんだ。伊尾崎とのあいだの子どもだ」
ユキは手帳をひらいた。メモした家系図を確認する。
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