四章 呪われた村

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最初に消されてるのは、庄屋の第二夫人。これが信乃だ。その下の名前も消されている。信乃の子どもの位置だ。 「これのことね?」 「そう。娘にも信乃と同じ力があった。母親ほど強くはなかったみたいだが。そして、母に似て、とても美しかった」 「なるほど。そういうことか。書き写すとき、変だと思ったんだよね。 だって、この家系図で見ると、庄屋の末息子と結婚したことになってる。二人は血のつながりはなかったんだ」 「末息子一人だけが、祟りをまぬがれた。信乃の娘は、その末息子と結婚した」 「そのあとの戸神家の血筋は、みんな、この二人の子孫ね。つまり、今の戸神家の人たちは、全員、信乃さんの子孫でもある。 信乃さんは憎い相手を呪ってるつもりで、自分の子孫を祟ってることになるの? そんなの……悲しすぎる」 「死んでしまった人間には、そういう情は残ってないんだろうよ。死の瞬間の無念の思いだけが、この世に、しがみついてるんだ」 たしかに、話の通じる相手ではない。 「とにかく、祟りは現実に存在する。以前は夜な夜な、信乃の霊が、この家のなかを歩きまわったらしい。それを見て心臓発作で死んだ人間もいるんだとか。 怨霊になった信乃は、犬をあやつる力も得た。犬をあやつってみろと、正妻に、あざけられたのが、よほど悔しかったんだろうな。 もちろん、戸神家の人間も、ただ殺されてるわけにはいかない。いろいろな手立てで、信乃の霊を鎮めようとした」 ユキは思いだした。 おばあちゃんが食べられたと言ってた家政婦。早く鎮めてもらわないと話していた。 「鎮める方法があるのね?」 「条件つきだが、ある」 「どうしたらいいの?」 「戸神の人間には、信乃の娘から受け継いだ呪術的な力がある。 そもそも、庄屋の末息子だけが呪い殺されなかったのも、信乃の娘が守ったからだ。信乃から続く呪術力を持つ人間には、犬神を抑えることができるんだ」 「もしかして、塚をさわると祟る力を得ることができるのって、戸神家の人限定なの?」 玲一は、うなずく。 「戸神の人間が、あれにさわると、犬神に憑依される。同時に呪術の力で、犬神を自分のなかに封じることもできるんだ。 とくに子どもは霊的な力が強いから、犬神をコントロールすることができる」 「戸神くん、中学のころ、犬をあやつれたってウワサだよ」 それには答えず、玲一は話を続ける。
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