四章 呪われた村

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「そのことに先祖たちも気づいた。それで、わざと子どもに塚をさわらせて、祟りを抑えこむことにした。子どもが成長するまでは、犬神は、おとなしい」 「でも、それって一時的なものでしょ? ほんの十年か、長くても二十年か……」 「そう。大人になると呪術の力が薄れる。憑かれた人間は犬神に支配される。自分自身が犬神になるんだ。 そして、信乃の霊に、あやつられる。 そうなると村は地獄さ。戸神の人間だけでなく、村じゅうが標的だ。誰かれなく犬神に食い殺される。信乃を殺害するのには、村人も加担したから」 「でも、玉館くんたちは? この村の住人じゃないけど」 「そりゃ、恨みを買ったからだろ。犬神の。ふざけて塚を荒らしたんだから」 「わたしたちも同罪ってわけ? だから夢に出てくるのね。あの夢に現れる黒い影。あれが信乃さんの霊なの?」 玲一は少し迷った。それから、首をふる。 「いや。あれは、あやつられてる犬神の化身だ」 「戸神くんじゃないの?」 「おれじゃない」 「でも、今、村で犬神が、あばれてるんでしょ? 家政婦さんたちが話してた」 玲一は、うつむく。 「さっきの話の続きだけど。子どものときは犬神を抑えておける。だけど、大人になると抑えられなくなる。 なら、どうやって永続的に犬神を抑えるんだと思う?」 「えーと……次の子どもに、また封じさせるのかな」 「半分、正解。犬神を封じてる者は、必ず十代で子どもを残すんだ。その子どもが、次の依りまし役になる。依りましの子どもなら、その子も呪術力の強い子になるからね」 「半分っていうのは?」 「新しい依りましが三歳になると、前の依りましは必要なくなる。大人になって、犬神になる前に、始末されるんだ」 「それって……」 ユキは、そのさきの言葉を続けることができない。 かわりに、玲一が言った。 「殺すんだ。そうすることで、依りましごと犬神を消す。村は平穏が保たれる。それが、この村のルールだ」 「ひどい。それじゃ、いけにえじゃない」 「しかたないさ。一人の命で村人全員が救われるんだからね。 だが、そうは言っても、親は自分の子どもをいけにえにしたくない。それは戸神の人間だって同じだ。自分の手元で育てなければ、あまり情は移らないだろ。 だから、依りましが十八になると、ある儀式をおこなう。次のいけにえを作る儀式だ。
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