四章 呪われた村

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相手は村人のなかから、お告げで選ばれるーーというのは建前だね。 たいていは、貧乏人とか若い未亡人とか、弱い立場の村人が金で買われるんだ」 ハッとした。 イトコなのに、家系図に名前の載ってないリヒト。 「それ、リヒトくんのことじゃ……」 「玲太郎の異母弟、玲次郎が先代の依りましだった。リヒトは、その玲次郎と、坂上律子の子どもなんだ。 生まれながらに十代で死ぬことを運命づけられた子どもさ」 そう言われれば、わかる。 リヒトのあの翳のある性格。 だった一人で巨大な重圧に抗おうとしているようなふんいき。 そんな重い運命を背負っていれば、誰だって、そうなる。 「リヒトは次世代の依りましを作る儀式まで、坂上家で育てられることになってた。でも、自分の運命は子どものころから知ってた」 だまって聞いていたアユムが口をひらく。 「だいたいの事情はわかった。じゃあ、今、なんで犬神が、あばれてるんだ? リヒトが封じてるんじゃないのか?」 「霊力の強さには個人差がある。ふつう、二十歳くらいまでは大丈夫なんだが……たまに、それより早く犬神化する依りましもいる。リヒトは始末される前に、犬神になった」 「犬神になって、村人や恨みのある玉館たちを殺してまわってるのか?」 「そういうこと」 思わず、ユキは叫んだ。 「そんなはずない!」 しッと、玲一に叱責される。 「誰かに聞かれたら困る」 「ごめんなさい。でも、リヒトくんは犬神なんかじゃなかったよ。ちゃんと人間だったし、話もできた」 玲一は考えながら言う。 「ときどき理性をとりもどしたときだけ、人間の姿に戻ってるのかもしれない」 「違うと思うけど。リヒトくんは、そんな人じゃ……」 でも、そこで、思いだす。 玉館が殺されたとき、ひろった写真のことを。玉館の死体が写っていた。あの写真を落としたのは、リヒトかもしれない。 ユキがだまると、玲一が話しだした。 「そんなわけで、今、村では犬神が、あばれまわってる。アイツにあやつられる前に、村じゅうの犬を殺した。でも、そんなことでは止まらない。前のときも、そうだった」 アユムが問う。 「そうそう。前のとき、家政婦のばあさんが食われたんだってな。それって、いつなんだ?」 「二十年ちょっと前だね。玲次郎が、とつぜん犬神化してしまった。玲次郎は多少、理性が残ってたから、自ら殺されることを望んだ」
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