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相手は村人のなかから、お告げで選ばれるーーというのは建前だね。
たいていは、貧乏人とか若い未亡人とか、弱い立場の村人が金で買われるんだ」
ハッとした。
イトコなのに、家系図に名前の載ってないリヒト。
「それ、リヒトくんのことじゃ……」
「玲太郎の異母弟、玲次郎が先代の依りましだった。リヒトは、その玲次郎と、坂上律子の子どもなんだ。
生まれながらに十代で死ぬことを運命づけられた子どもさ」
そう言われれば、わかる。
リヒトのあの翳のある性格。
だった一人で巨大な重圧に抗おうとしているようなふんいき。
そんな重い運命を背負っていれば、誰だって、そうなる。
「リヒトは次世代の依りましを作る儀式まで、坂上家で育てられることになってた。でも、自分の運命は子どものころから知ってた」
だまって聞いていたアユムが口をひらく。
「だいたいの事情はわかった。じゃあ、今、なんで犬神が、あばれてるんだ? リヒトが封じてるんじゃないのか?」
「霊力の強さには個人差がある。ふつう、二十歳くらいまでは大丈夫なんだが……たまに、それより早く犬神化する依りましもいる。リヒトは始末される前に、犬神になった」
「犬神になって、村人や恨みのある玉館たちを殺してまわってるのか?」
「そういうこと」
思わず、ユキは叫んだ。
「そんなはずない!」
しッと、玲一に叱責される。
「誰かに聞かれたら困る」
「ごめんなさい。でも、リヒトくんは犬神なんかじゃなかったよ。ちゃんと人間だったし、話もできた」
玲一は考えながら言う。
「ときどき理性をとりもどしたときだけ、人間の姿に戻ってるのかもしれない」
「違うと思うけど。リヒトくんは、そんな人じゃ……」
でも、そこで、思いだす。
玉館が殺されたとき、ひろった写真のことを。玉館の死体が写っていた。あの写真を落としたのは、リヒトかもしれない。
ユキがだまると、玲一が話しだした。
「そんなわけで、今、村では犬神が、あばれまわってる。アイツにあやつられる前に、村じゅうの犬を殺した。でも、そんなことでは止まらない。前のときも、そうだった」
アユムが問う。
「そうそう。前のとき、家政婦のばあさんが食われたんだってな。それって、いつなんだ?」
「二十年ちょっと前だね。玲次郎が、とつぜん犬神化してしまった。玲次郎は多少、理性が残ってたから、自ら殺されることを望んだ」
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