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2
ユキは玲一をにらんだ。
「人殺しの手伝いをしろっていうの?」
「あいつは、もう人じゃない。化け物だ」
でも、ユキが会ったリヒトは、化け物なんかじゃなかった。神出鬼没だが、れっきとした人間だ。
「そんなことできない。ちゃんと人間だった」
「じゃあ、君たちは、このまま、アイツに呪い殺されるってわけ? 印が出てるのに?」
そう言われると、反論できない。
ユキは、だまった。かわりに、アユムが口をひらく。
「簡単に始末するって言うけど、相手は化け物なんだろ? おれたちに、どうしろって言うんだ?」
「リヒトはユキさんの前に、人間の姿で現れた。それなら、理性が戻れば、また、やってくるかもしれない。
そのときなら話ができる。油断を見すまして、始末することも……」
「ユキに、おとりになれってのか? それはダメだ。危険すぎる」
そくざにアユムは反論した。
しかし、かえってユキは安心した。
「わたしが会って話せるのね。それなら説得できるかもしれない」
玲一の言葉を信用しないわけではない。
でも、ユキには、どうしても、あのリヒトが犬神とは思えない。ちょくせつ会って本人の口から真実を聞きたい。
「じゃあ、リヒトくんをさがさないとね」
「行きそうな場所は、だいたい察しがついてるんだ。犬神に憑依されてはいても、リヒトには実体がある。どこかに寝泊まりする必要があるってことだ」
その場所には心あたりがある。
「このこと、まだ話してなかったけど。じつはーー」
ユキは坂上家の屋根裏で見た、目のことを話した。
「あれは、たしかに夢で見た『アイツ』だった。あのときは、わたしたちのあとを追ってきたのかと思ったけど。そうじゃなかったのね。あの家を寝場所にしてるんじゃない?」
玲一が、うなずく。
「そうだと思った。この村で人目につかず寝てられるのは、空き家になった坂上家くらいだ」
たしかに、あのとき、リヒトは坂上家の家屋のなかから出てきた。
もしかして、本当に、リヒトが犬神なんだろうか。少し不安になる。
「今から行けば、いるのかな」
「ウソだろ。夜は外に出るなって、家政婦たちも話してたろ」と、アユムは、やっぱり反対する。
玲一は断言した。
「昼夜は関係ない。村人は、ただ闇を怖がってるだけさ。現に昼間に呪いで人が殺されてる。夜だから、より危険ということはない」
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