四章 呪われた村

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その意見には、ユキも賛成だ。 「言えてる」 「まさか、ほんとに今から行くのか?」 「一刻も早いほうがいいでしょ?」 「けど、どうやって始末するんだ。話ができる状態かどうかも、わからないのに」 すると、玲一は、かたわらに置いた風呂敷包みを、ユキたちの前に出した。 「犬神になってしまった人間を殺すには、これを使うしかない」 玲一が風呂敷をほどく。 なかから細長い桐の箱が出てきた。 ユキは、たずねる。 「それは?」 「信乃の娘が子孫のために残したものだよ。信乃の娘は、自分の身に犬神を封じることで、戸神家を守っていた。 だが、自分の力も年とともに弱まってきた。犬神を抑えられなくなると知っていた。 だから、そうなる前に、呪力をこめて、我々に、これを遺した」 そう言って、玲一はフタをあける。 ユキは、かたずをのんで見守った。 ところがーー なかを見た玲一は、あっと小さな声をあげた。 「どうしたの?」 たずねると、あきらかに動揺した声をだす。 「なくなってる」 「えっ?」 のぞきこむと、箱のなかには、重そうな文ちんが入ってる。 「それって……」 「もちろん、こんなの、重さ調整に誰かが入れたフェイクだ。誰かが、本物を持ちさったんだ」 「ほんとは何が入ってたの?」 「懐剣だ。信乃が、まだ正気だったころ、娘に渡してたんだ。護身用に。形見のつもりもあったのかも。 だから、その剣には、信乃と娘の二人ぶんの霊力が込められてる。 犬神の依りましを始末するときには、いつも、その剣が使われていた」 「なんで、そんな大切なものがなくなるの?」 「わからない。誰かが盗んだとしか考えられない」 ユキは、ひらめいた。 「リヒトくんのお父さんが、知り合いに預けてたものがあるんだよね。リヒトくんが大人になったとき、渡してほしいって」 玲一が、かすかに、うなる。 「蜂巣さんですね?」 「戸神くん、知ってるの?」 「おれは子どもだったから、おぼえがない。けど、民俗学の研究のために蔵のなかを見せてほしいって、うちに来てたらしい。盗めるとしたら、あの人しかいない」 「リヒトくんが将来、その剣で殺されることを知ってたってことだよね。きっと、リヒトくんを助けるために隠したんだ」 「だろうね。だけど……こまったな」 「後輩の矢沼くんが、とりに行ってる。明日、合流することにはなってるけど」 矢沼と連絡がとれないことが気になる。
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