四章 呪われた村

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「もしもよ? もしも、リヒトくんが、ほんとに犬神だったとして。あなたの言うように始末できたとしても……そのあと、どうするの? だって、この家に、子どもいないじゃない」 とうぜんのように、玲一は答える。 「とりあえず、おれが封じるしかない。いつまでもつか、わからないが」 「でも、そうすると、今度は、あなたが犬神に……」 「それまでには子どもを作るさ」 なげやりな玲一を見て、ユキは悲しくなった。 だからだったのか。リヒトと玲一。性格は、まるで違うのに、どこか似た印象があったのは。重すぎる運命への抵抗と諦観が、ないまぜになったような……。 「あきらめてるの? それでいいの?」 「ほかに、どうしようもないだろ? そりゃね。ごくまれに、戸神以外の人間でも、犬神を封じる力を持つ人はいるんだ。生まれつき霊力の強い人だね。 でも、そんな人、すぐには見つからない。見つかっても、身代わりになってくれるはずもない」 たしかに、そうだ。返す言葉もない。 玲一は話をそらす。 「とにかく、懐剣がないと、どうにもならない」 「そうね。一刻も早く、手に入れないと。じゃあ、アユム。行こうか」 アユムは、ため息をついた。 ユキはアユムと二人で外へ出た。クツは入浴のときに玄関から持ってきてたから、そのまま庭に出ることができた。 外は暗い。台風のせいだろう。雲があつい。 家人は寝てるのか。気味が悪いほど静かだ。強い風が庭木をゆする音だけが耳につく。 表門から出ると目立つので、裏門に向かう。裏門は内側から、かんぬきで押さえてあった。かんぬきをはずし、外へ出る。 道路に人影はない。 まだ十時すぎなのに、電気のついた家が一軒もない。街灯もないから、まっくらだ。 いちおう懐中電灯は持ってきたが、つけずに歩いた。人家の密集したところはさけ、田んぼのあぜ道を進む。 あたりを警戒しながら、ようやく、村外れまで来た。 「やっと、ここまで来た。あとは一本道ね」 車を置いた材木置場までは、完全に山道だ。そこまで来て、懐中電灯をつける。ここなら村人の目には止まらないだろう。 今のところ怪異もないし、ほっとした。 しかし、雨がポツポツふりだしてきた。台風の影響が心配だ。 急いで材木置場へ行くとーー 「そこに、誰かいる」 アユムが、ささやく。 ユキは、あわてて懐中電灯を消した。 車の前に、誰か立っていた。
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