四章 呪われた村

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薄闇に黒いシルエットが、ぼんやり浮かぶ。 ユキは、ドキッとした。 あのシルエット、もしかして……。 その瞬間、奇跡的に雲が切れた。 青ざめた月光が、その人を照らす。その人の、あの物悲しい表情を。 「リヒト」 声をかけると、リヒトの表情は一変した。 白い歯を見せて、アイドルみたいにキレイな笑顔を見せる。 「また会ったね。ユキさん。こんな時間に、どこに行くの?」 「そういうあなたこそ、どこに行くの?」 「おれは待ってたんだよ。この時間に、ここにいれば、ユキさんに会えるんじゃないかと思って」 「なんで、そう思ったの?」 「なんとなく」 「………」 やっぱり、リヒトが犬神なんだろうか。 だから、どこにいても、ユキの居場所がわかるんだろうか。リヒト本人が呪いの印をつけた相手だから? どうやって、聞きだすべきか。ユキは迷った。考えあぐねていると、リヒトが言った。 「ほんとは、この車が君たちのものだと知ってたんだ。村に来るとき、おれを追いぬいていったろ? だから、待ってたら戻ってくるかもしれないと考えた」 あのトンネルのなかで見た人影か。 「あれ、やっぱり、リヒトくんだったんだ。なんで、あんなとこ歩いてたの?」 「バス停がトンネルの向こうだから」 なるほど。町からバスで来て、バス停で降りれば、必然的に、そうなる。 それなら、リヒトは犬神じゃない? 自分で言うように、町から来て、玲一をさがしてるだけなのか。 いや、だが、逆に言えば、こうなる。 昨日、玉館や柴田が殺されたとき、リヒトは町にいた。 そして、リヒトが村にやってきたとたん、リンカが殺された。ユキたちも犬神に遭遇した。 (犬神が移動手段にバスを使うってのも変だけど……ふだんは人間の姿なら、そうなるのか) ますます、わからなくなる。 リヒトを信じたい。信じたいが、疑おうと思えば、かなり怪しい。 リヒトは自分が疑われてるとは夢にも思ってないようだ。平然と言う。 「町に戻るんだろ? おれも、つれてってくれないか」 ユキは迷った。 もしかしたら、リヒトは犬神かもしれない。そんな人と同じ車内ですごすのは危険すぎる。 (まあ、どこにいても、危ないのは同じか。ほんとに犬神なら、夢のなかにでも来れるんだもんね) ユキは意を決した。 「S駅の近くまで行くつもりだけど、それでいい?」
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