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「ありがとう。ところで、さっきから物陰で、こっちを見てるのは、君の友達?」
ため息をついて、アユムが出てくる。
「べつに隠れてたんじゃない。出てくるタイミングがなかっただけだ」
いや、違うだろう。もちろん、隠れてたのだ。タイミングを見て、もしも、やれそうなら、リヒトを殺すーーか、少なくとも殴って気絶させるつもりだったはず。
「ユキさんの友達って、こんな感じばっかりだね」と、リヒトが、くすくす笑う。
ユキは、なんでか恥ずかしくなった。
「そうじゃないんだけど……なんか、ちょっと、いろいろ、ごめん。こいつ、川瀬アユム。おぼえてない? 肝試し、いっしょに行った」
「ああ。なるほど。了解。じゃあ、出発しようか」
アユムは無言で運転席に乗りこんだ。
迷ったが、ユキは助手席にすわる。
必然的に、リヒトは後部座席だ。
もしも、リヒトが犬神なら、いきなり背後から、おそわれる可能性があるのだが。
車が走りだすと、リヒトが切りだした。
「ところで、ユキさん。戸神邸にいたろ? 新しくわかったことない?」
あるよ。あなたが犬神だとわかったーーとは言えないので、
「戸神くん……イトコの戸神玲一くん。行方不明じゃなかったよ。病気で入院してたんだって。ちゃんと家に戻ってた」
「あの包帯にサングラスの?」
「そういえば、見てたよね? 神社で、リンカが殺されたとき」
「まあね」
「なんで、あんなとこにいたの?」
「戸神邸を見張ってたからさ」
「なんのために?」
「だって、呪いの中心だろ?」
「そうだけど……なら、どうして、戸神くんに会おうとしないの? 戸神邸の前で、急にいなくなったよね?」
リヒトは答えない。
ふりかえると、口元に手をあてて考えている。
「リヒトくん?」
「まあ、いろいろ理由はあるけどね。ところで、同級生に、高山チサトさんっていたろ? おぼえてるかな?」
高山……なぜだろう?
つい最近、誰かから、その名を聞いた気がする。
「スポーツが得意だった子だよね。とくに親しかったわけじゃないから、よくおぼえてないけど」
言いながら、必死で記憶をかきまわす。が、思いだせない。いつ、誰から聞いたのか。ほんとに、つい最近だったはずなのに。
「高山さんが、どうかしたの?」
「このへんに旅行に来てたらしいんだ。友達といっしょに。ユキさん、知らないかと思って」
「知らない。中学卒業してから会ったことないよ」
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