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「じゃあ、しかたないな」
「リヒトくんって、高山さんと親しかったっけ?」
犬神かもしれないと警戒しながら、なんだか悔しい。ほかの女の子と親しいとわかると。
ほんとは会えて嬉しいのに、なぜ疑わなければいけないのか。
「いや。そうじゃないけどね。前に同じ団地に住んでたから。ちょっと気になって」
「ああ。お母さんと市営団地に住んでたころね」
「うん。ところで、矢沼くんは? 帰ってきたかな? 預かり物ってやつ、渡してほしいんだけど」
ついに来たか。その質問。
やっぱり、ユキたちから、それを奪うことが、リヒトの目的なのか?
平静をよそおい、ウソをついた。
「あれね。まだよ。矢沼くんとは明日、合流するから」
リヒトが信じたのかどうか、わからない。たがいに、さぐりあう感触が車内に、ただよった。
そのうち、雨が激しくなった。
フロントガラスに大粒の雨がたたきつけてくる。雨のせいで、山道をとばせなかった。S駅についたのは、十二時前だ。
「じゃあ、おれは自分の用をすませてくるけど、帰りも乗せてもらえないかな? なるべく早く戻ってくる」
そう言って、リヒトは雨のなかに、とびだしていった。
いったい、この時間に、なんの用があるというのか。
姿を消したのは、このあと、犬神になって、おそってくるつもりじゃないか。
そう思うと、不安になる。
アユムは嫌悪感もあらわに告げる。
「あいつ、怪しい。信用できない」
まあ、たしかに怪しい点は多い。
それでも、まだ信じたい気持ちのほうが強い。
「黒岩さん、起きてるかな? パン屋さんは朝、早いんだもんね。寝てるかな」
夜間なので交通量が少ない。なので、店の前まで車で行って、路肩に駐車する。
もちろん、店は閉まっていた。なかも暗い。店舗には呼び鈴のようなものもない。あるとしたら、たぶん、裏口だ。そっちが住居になってるはずだ。
「ちょっと待ってて。わたし、裏口、行ってみる」
ずぶぬれになりながら、路地裏にまわって探す。しかし、暗くて、どの家がそれなのか、わからない。
(そうだ。メアド交換したんだった)
近くの軒下に入って、雨をよけ、ユカリにメールした。
どうか、すぐに気づいてくれますようにーー
祈るような気持ちでいると、いきなり、背後のドアがあいた。
「秋山さん? そこにいるの」
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