四章 呪われた村

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「じゃあ、しかたないな」 「リヒトくんって、高山さんと親しかったっけ?」 犬神かもしれないと警戒しながら、なんだか悔しい。ほかの女の子と親しいとわかると。 ほんとは会えて嬉しいのに、なぜ疑わなければいけないのか。 「いや。そうじゃないけどね。前に同じ団地に住んでたから。ちょっと気になって」 「ああ。お母さんと市営団地に住んでたころね」 「うん。ところで、矢沼くんは? 帰ってきたかな? 預かり物ってやつ、渡してほしいんだけど」 ついに来たか。その質問。 やっぱり、ユキたちから、それを奪うことが、リヒトの目的なのか? 平静をよそおい、ウソをついた。 「あれね。まだよ。矢沼くんとは明日、合流するから」 リヒトが信じたのかどうか、わからない。たがいに、さぐりあう感触が車内に、ただよった。 そのうち、雨が激しくなった。 フロントガラスに大粒の雨がたたきつけてくる。雨のせいで、山道をとばせなかった。S駅についたのは、十二時前だ。 「じゃあ、おれは自分の用をすませてくるけど、帰りも乗せてもらえないかな? なるべく早く戻ってくる」 そう言って、リヒトは雨のなかに、とびだしていった。 いったい、この時間に、なんの用があるというのか。 姿を消したのは、このあと、犬神になって、おそってくるつもりじゃないか。 そう思うと、不安になる。 アユムは嫌悪感もあらわに告げる。 「あいつ、怪しい。信用できない」 まあ、たしかに怪しい点は多い。 それでも、まだ信じたい気持ちのほうが強い。 「黒岩さん、起きてるかな? パン屋さんは朝、早いんだもんね。寝てるかな」 夜間なので交通量が少ない。なので、店の前まで車で行って、路肩に駐車する。 もちろん、店は閉まっていた。なかも暗い。店舗には呼び鈴のようなものもない。あるとしたら、たぶん、裏口だ。そっちが住居になってるはずだ。 「ちょっと待ってて。わたし、裏口、行ってみる」 ずぶぬれになりながら、路地裏にまわって探す。しかし、暗くて、どの家がそれなのか、わからない。 (そうだ。メアド交換したんだった) 近くの軒下に入って、雨をよけ、ユカリにメールした。 どうか、すぐに気づいてくれますようにーー 祈るような気持ちでいると、いきなり、背後のドアがあいた。 「秋山さん? そこにいるの」
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