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3
リヒトはユキのとなりに来て、顔をのぞきこんできた。
「ユキさん。どうかした? 顔色悪いね」
ここで動揺したらダメだ。なんとか、ごまかさないと。
そして、スキを見て、懐剣でーー
ユキは深呼吸した。
「ちょっと疲れただけ。今日は、いろいろあったから」
「そう。おれの用はすんだよ。そっちは?」
「こっちも、すんだ。アユムの車で待っててくれる?」
だが、リヒトは立ち去らない。
「ロッカーに何か預けてるの? それって、矢沼くんが受けとりにいったもの?」
するどい言葉をなげてくる。
やっぱり、リヒトの目的は、この懐剣だ。リヒトが犬神なのだ。
(どうしよう。この場をしのぐには。いちかばちか、いっしょに開けてみるってのは? なかを確かめるふりして、すばやく懐剣をとりだす。そのまま、心臓を……)
ためらってるヒマはない。良心は、とがめるが。でも、リンカのむごたらしい遺体を思いだして、ユキは心をふるいたたせた。
「……じつは、そうなの。さっき、矢沼くんからメールがきて。ここに入れたっていうの。いいかげんよね」
「じゃあ、すぐに渡してくれないか?」
「そうね」
ユキは先にたって歩いた。ヒザがガクガクふるえる。なるべく、平静をよそおった。
ユキはA79の前に立った。
カギをさしこむ。手がふるえて、一度では入らない。リヒトに変に思われなかっただろうか。
ロッカーのなかには、風呂敷に包まれた細長い箱状のものが入っていた。ちょうど懐剣の入る大きさだ。
「あけてみるね」
箱をロッカーに入れたままで、風呂敷をはずす。自分の体で手元をかくすようにして、ユキはフタをあけた。
まちがいなかった。懐剣だ。
どこか禍々しいような迫力がある。
懐剣を箱から出し、さやをぬく。
(ふりむきざまに一撃。そう。それで終わる。相手は人間じゃないんだから。犬神なんだから)
ユキは思いきって、懐剣をにぎりしめ、ふりかえった。リヒトの胸に、とびこむ。さけようのない近距離。
しかしーー
「ユキさん。そんな、ふるえた手じゃ、人は殺せないよ」
ユキの手は、途中で止められていた。リヒトの手が、ガッチリつかんでいる。
「おだやかじゃないな。急に刃物をふりまわすなんて」
リヒトは片手でユキの手をつかみ、片手で軽々、懐剣をもぎとる。
「わたしも殺すの? やっぱり、あなたが犬神なのね?」
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