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すると、リヒトは、ため息をついた。
「態度がおかしいから、そんなことだろうとは思ったけど。なんで、おれのこと、そんなふうに?」
「戸神くんが言ってた。犬神はリヒトくんだって」
「やっぱり。ほんとは、もっと詳しいこと聞いてたんだな。呪いの正体は犬神か」
「あなたが、そうでしょ?」
「違う」
「じゃあ、あなたが撮った、あの写真は? 高山さんや玉館くんの死体。あなたが犬神だから、撮れたんでしょ?」
リヒトは困惑顔になった。
「見たのか。まいったな」
「ほらね。説明できない」
リヒトは数瞬、だまりこむ。そして、また、ため息をつく。
「わかった。ほんとのこと話す。もとはといえば、そっちが勝手にーー」
そのときだ。構内が急に、さわがしくなる。駅員が何人も、同じ方向に走っていく。
「なんなの?」
「行ってみよう」
リヒトは懐剣をもとどおり箱におさめる。すばやく、おおざっぱに風呂敷をむすぶ。
「ユキさんが持ってていいよ。とにかく、ちゃんと話してからだ」
あれ? この人、わたしのこと殺すつもりじゃないの?
とまどうあいだにも、リヒトは走りだしていた。あわてて、ユキも追う。
夜遅いから、構内に人影は少ない。駅員が走っていくのは、さらに、ひとけのないバスターミナルに向かう通路だ。
薄暗い通路のなかほどに、立ちつくす人がいる。白い杖を持つ、目の不自由な人だ。集まった駅員たちも、そこで立ちつくしていた。
温和なはずの盲導犬が、人をおそっている。ラブラドルレトリバーの首輪を両手でつかみ、必死で噛みつかれまいとしてるのは、アユムだ。
ふつうの状態で、盲導犬が人をおそうはずがない。犬神に、あやつられてるのだ。
「アユム!」
「来るな! 逃げろッ」
ユキは、どうしていいのか、わからない。
うろたえていると、リヒトが、かけだした。犬の首輪をつかんで投げとばし、押さえつける。そのまま、犬の首に腕をまわした。
しばらくすると、ラブラドルレトリバーは動かなくなった。
「殺したの……?」
「いや。絞め落とした。今のうちにオリにでも入れといたほうがいい」
犬をはなし、リヒトはアユムに近づく。
「ケガしてるな。どこをやられた?」
アユムは答えられない。うめき声をあげるばかり。肩口あたりから、大量に出血してる。
リヒトがアユムのシャツをめくる。右肩のほか、数カ所に傷があった。
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