四章 呪われた村

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リヒトはアユムのシャツの袖をちぎり、止血を始める。びっくりするくらい手慣れてる。というより、動じない性格なのか。 「心配いらない。それほど深くない。命には別状ないだろう。まあ、病院には行かないとな。肩は縫わないと。狂犬病の恐れもあるし。救急車、呼ぼうか」 ようやく、アユムが、つぶやく。 「そんなヒマ……ないだろ。おれは平気だ」 ユキが見てもわかる。平気なはずがないことくらい。 「アユム。あなたは救急車で病院に行って。かわりに車、貸してよ」 「なに言ってんだ。ペーパードライバーのくせに」 すると、リヒトが言った。 「運転なら、おれがするよ」 アユムは、なおも、しぶる。 が、そこへ、救急隊員がやってきた。駅員が呼んだのだ。 「お願い。早く、カギだして」 しぶしぶ、アユムは車のキーを渡してくる。 「気をつけろよ。ユキ」 「わかってる。アユムもね」 アユムは救急隊員に運ばれていった。 「おれたちも急ごう」 リヒトの言うとおりだ。警察が来る前に行かないと、足止めされると困る。のんびり事情聴取を受けてるヒマはない。 速足でリヒトが歩きだす。ユキも追った。駅員が呼びとめていたが、無視して逃げだす。 「車。どこにある?」 「こっち」 駐車場に停めたアユムの車に、二人で乗りこむ。 「運転できるのね?」 「運転免許、見る?」 「見せて」 リヒトはポケットから、カードケースをとりだす。目の前にさしだされた運転免許を見て、ユキは、がくぜんとした。 「なに、これ? 偽造?」 「本物だよ」 「そんな……だって……」 そんなはずない。写真は、たしかにリヒトだ。でも、これは、リヒトじゃない……。 「東堂……たけし?」 「タケルだよ」 免許証の名前は、東堂猛と書かれていた。 「どういうこと?」 「だから、これが、おれの名前。君が勝手に勘違いしたんだ」 「あなた、リヒトじゃないの?」 「おれは一度も、自分が坂上リヒトだと言ってないけど?」 そう言われてみると、そうだったような……。 「でも、それじゃ、なんで違うって言ってくれなかったの? ちゃっかり、リヒトみたいなふりして……あっ、そうか! わたしから情報をひきだすためね! ズルイ!」 あはは、と、リヒトーーいや、猛は、ほがらかに笑う。 こんな笑いかたもできるのか。なんで、こんなときにドキドキするのか。
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