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リヒトはアユムのシャツの袖をちぎり、止血を始める。びっくりするくらい手慣れてる。というより、動じない性格なのか。
「心配いらない。それほど深くない。命には別状ないだろう。まあ、病院には行かないとな。肩は縫わないと。狂犬病の恐れもあるし。救急車、呼ぼうか」
ようやく、アユムが、つぶやく。
「そんなヒマ……ないだろ。おれは平気だ」
ユキが見てもわかる。平気なはずがないことくらい。
「アユム。あなたは救急車で病院に行って。かわりに車、貸してよ」
「なに言ってんだ。ペーパードライバーのくせに」
すると、リヒトが言った。
「運転なら、おれがするよ」
アユムは、なおも、しぶる。
が、そこへ、救急隊員がやってきた。駅員が呼んだのだ。
「お願い。早く、カギだして」
しぶしぶ、アユムは車のキーを渡してくる。
「気をつけろよ。ユキ」
「わかってる。アユムもね」
アユムは救急隊員に運ばれていった。
「おれたちも急ごう」
リヒトの言うとおりだ。警察が来る前に行かないと、足止めされると困る。のんびり事情聴取を受けてるヒマはない。
速足でリヒトが歩きだす。ユキも追った。駅員が呼びとめていたが、無視して逃げだす。
「車。どこにある?」
「こっち」
駐車場に停めたアユムの車に、二人で乗りこむ。
「運転できるのね?」
「運転免許、見る?」
「見せて」
リヒトはポケットから、カードケースをとりだす。目の前にさしだされた運転免許を見て、ユキは、がくぜんとした。
「なに、これ? 偽造?」
「本物だよ」
「そんな……だって……」
そんなはずない。写真は、たしかにリヒトだ。でも、これは、リヒトじゃない……。
「東堂……たけし?」
「タケルだよ」
免許証の名前は、東堂猛と書かれていた。
「どういうこと?」
「だから、これが、おれの名前。君が勝手に勘違いしたんだ」
「あなた、リヒトじゃないの?」
「おれは一度も、自分が坂上リヒトだと言ってないけど?」
そう言われてみると、そうだったような……。
「でも、それじゃ、なんで違うって言ってくれなかったの? ちゃっかり、リヒトみたいなふりして……あっ、そうか! わたしから情報をひきだすためね! ズルイ!」
あはは、と、リヒトーーいや、猛は、ほがらかに笑う。
こんな笑いかたもできるのか。なんで、こんなときにドキドキするのか。
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