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「まあね。こっちにも、わけがあって」
「戸神くんを探してたの? 呪いのこと調べたり……待って、あの写真は?」
猛はキーをさしこみ、エンジンをふかす。
「探してるのは、戸神じゃない。高山チサトだ」
とつぜん、ひらめいた。
「お母さんが言ってた。高山さんの両親が探偵をやとったって。それが、あなたなのね」
「そう」
なんで今まで、そこに思いいたらなかったのか。そうとわかれば、すべてに納得がいく。
「おれは行方不明者をさがす専門の探偵なんだ。ちょっと人にはない特技があってね。ほんとはナイショなんだけど」
そう言って、猛は発車させる。
ますます激しくなる雨のなか、自動車は静かに夜の町へ、すべりだす。
「特技?」
「さっき見ただろ。写真」
「そうよ。それ。あの写真、どうやって撮ったの? なんか変な写りかただった。それに、死体の写真なんて、いつ撮れたの? だから、あなたが犬神なんだって……」
「ユキさん。ちょっと、おれのボストンバッグから、カメラだして」
「今?」
「口で言っても、本気にしないよ」
わけはわからないが、言われたとおりにする。
「はい。これ」
猛は片手でハンドルをにぎったまま、片手でカメラを受けとる。
いきなり、カメラのフラッシュが光った。シャッターを切る音も。猛はカメラを手に乗せただけで、なんの操作もしてないのに。
「なに? 今の」
「カメラ。しまっていいよ。写真、何が撮れてる?」
本体から出てきた写真を、ユキはながめた。変な写真だ。真っ暗な山道で、ユキと猛が倒木を動かしてる。日付は、今日。
「わたし、こんなことしたおぼえないんだけど……」
猛はチラッと写真を見て、
「まいったな。どっかで道がふさがれてるんだ。それは、一時間後のおれたちだよ」
「一時間後?」
また少し、不信な気分になる。
「だから、言ったろ。口で説明しても、わかってもらえないって。念写だよ。
おれはね。念じただけで、写真が撮れるんだ。過去や未来のこと。人が心のなかで考えてること。
今は、一時間後のユキさんが、どうなってるか念じながら撮った」
そんなバカなと思った。
しかし、手品なら、タネを仕込んでおく必要がある。猛がユキに、この写真を見せることは、今の今まで、本人にも予測できなかったはずだ。
「じゃあ、ほんとに、あなたは探偵なのね? リヒトじゃないのね?」
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