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「あれが”俺は女には興味ないから、沙織の貞操は問題ない”って意味だなんて誰もわからないって」
翌日のデートで私は拓己くんを慰めていた。
「相手は片言の日本語しか喋れないってわかってたのに、ついカッとしちゃって。恥ずかしいよ。僕、人に殴りかかったのなんか生まれて初めてだったんだ」
そう。アディのあのセリフの直後、ガタッと立ち上がった拓己くんはアディに殴りかかった。
だけど、何しろアディは筋肉マッチョな奴だから、拓己くんのへなちょこなパンチなんて痛くも痒くもなくてニコニコしていた。
かなり気まずい空気が流れたのは言うまでもない。
「そもそもゲイだからと言って、男と同居するなんてありえないだろ」
ザザッと拓己くんの足元で砂が舞い上がった。
浜辺を手を繋いで歩いている。
海水浴場から少ししか離れていないのに、岩場と岩場の間の砂浜はプライベートビーチかのように私たちしかいない。
一応、服の下には水着を着ている。
去年のビキニはかろうじて着られたけど、腕もお腹も脚もお尻も胸までも窮屈でムチムチしている。
だから、”一応”であって、今日は水着になって泳ぐ予定はない。
「アディが私にまったく興味がないのはわかってたから、問題ないと思ったの。むしろ女性の同性愛者の方が多くて、ルームメイトを探すのが大変だったのよ」
「アディとは何にもなかったんだよね?」
「もちろん」
こんなおデブになってしまった私を心配してくれるのが本当に嬉しくて。
そっと手を放して拓己くんの腕に自分の腕を絡めた。
「沙織? 暑いから、ちょっと泳ごうか?」
ピキッと自分の顔が引き攣ったのがわかったけど、私は頷いた。
「そうだね。せっかく海に来たんだからね」
服のまま海に入ろうとした私を拓己くんの手が引き留めた。
「服、脱がないの?」
「脱ぎません!」
「誰も見てないから大丈夫だよ?」
そりゃあね、誰もいない奥まったところに連れてきてくれて感謝してるよ?
でも。
「拓己くんが見てるじゃない!」
「僕に見られるのはいいでしょ? どうせこの後、ベッドで全部見るんだから」
そんなことを真顔で言う拓己くんに赤面してしまった。
「こんな明るいお日様の下で見られたくないよ。もう本当に凄いんだから! 拓己くんに嫌われたくない」
必死すぎて涙目になってしまった私を、拓己くんがそっと抱きしめた。
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