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『アディ、こちらが拓己くん』
「で、彼がルームメイトだったアディ」
ドイツ語と日本語で2人を紹介した。
ニコニコ笑って握手するアディとは対照的に、拓己くんは戸惑いを隠せない様子だ。
「アディと一緒に帰るって、私言ったよね?」
「聞いたけど。僕がすっかり勘違いしてたんだな。ルームメイトは女性だとばかり思ってた」
「アディの前のルームメイトは女性だったけど。それで誤解してたのかもね。それで、これからなんだけど」
コホンと咳ばらいをした私を拓己くんが無言で見つめた。
「急きょ実家で私の帰国祝いとアディのウエルカムパーティーをやることになったんで、拓己くんも来てくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
いつもは空港で出迎えて私を家まで送るとすぐに帰ってしまう拓己くん。
翌日はデートするから、帰ってきた日は家族水入らずで過ごした方がいいと言ってくれていた。
今回も彼はそのつもりだったみたいだけど、彼氏を帰らせてアディを家に招き入れるのもどうかと思った私は、拓己くんの分の料理も用意しておくように母に頼んでいた。
「え、いいのかな? 僕までお邪魔して」
驚いてはいるけど決して嫌そうではない拓己くんの様子にほっとした。
「是非来てほしい。実は親に彼氏を連れて来いって前から言われてたから。あ、別に深い意味はないんだよ? 取って食うわけじゃないから、気楽にね」
「うん。緊張するけど、行かせてもらうよ」
神妙な顔で頷いた拓己くんがこの時何を考えていたのかなんて、私は知る由もなかった。
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