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「見なくてもこうやって抱きしめれば、沙織がどれだけ太ったかぐらいわかる。僕がどれだけ沙織を抱いてきたと思ってるの? そんなことであなたを嫌いになるはずない」
「うん」
こんなにカッコよくてモテモテなのに、彼は一度も揺らいだことはなかった。
私がドイツに行きたいと言っても、笑って励ましてくれた。
どんなに遠く離れても、僕たちの愛は絶対に壊れないと断言してくれた。
穏やかで優しいけど、私を思う気持ちは強くて固くて。
だからこそ私も研修に打ち込めたし、みのりさんや花菜さんにモヤモヤしても本気で浮気を心配したことはなかった。
私、何を怖がっていたんだろう。
拓己くんの大きな愛にずっと包まれていたのに。
拓己くんの胸を押して身体を離すと、私は勇気を出して服を脱いだ。
ちょっと息を吸ってお腹を凹ませたのは無駄な努力だったけど。
「綺麗だよ」
拓己くんがムッチリした私の身体に愛しそうな視線を注ぐのを感じて、私は首を振った。
「ちっとも綺麗じゃない! 頑張って痩せるから」
太るということはセルフコントロールが出来ていないということだ。アディのせいにすること自体間違っている。
自己管理能力が低いと思われたら、仕事をしていく上でもマイナスでしかない。
「僕はどんな沙織でも好きだよ。でも、沙織自身が今の自分を変えたいと思うなら応援する。ただ、頑張りすぎて身体を壊さないか、近くで見ていないと心配なんだ」
だから、と続けた拓己くんがいきなり私の前に跪いた。
「一生、沙織のそばにいさせて欲しい。僕と結婚してください」
拓己くんの手にはビロードの小箱に入ったダイヤの指輪が乗っていた。
「こんなムチムチのビキニ姿の私なんかにプロポーズしないでよ」
やっと言えたのは、そんなかわいげのないセリフ。
「それはノーってこと?」
拓己くんの目が不安そうに揺れたから、慌ててしゃがみこんで拓己くんに抱き着いた。
「イエスに決まってる!」
「良かったー! ありがとう。沙織のこと、死んでも離さないから。ずっと大事にする」
「私も」
そっと嵌めてくれた指輪はなぜか私の太くなった指にピッタリだった。
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