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カフェは堀に面しているので、水性の金魚ポケモン、トサキントが姿を見せており、葉月は馴れた指先の動作でモンスターボールを投げてポケモンを捉えた。
「有森さんもすっかりポケモンGOゲーマーだね」
既に注文してあったらしいボトルからワインをグラスに注いでくれた修平に笑われ、葉月は言い訳をした。
「ポケモンGO人気にあやかって集客しよう、っていう販促を提案した張本人ですもの、先ず私が多少でもゲームを理解しないことには話にならない。
で、これって結構ハマるから、ついついスマホが気になっちゃう。就業時間中にやるわけにいかないから、こうしてオフタイムで移動する時に一生懸命ポケモンを捕まえているわけ」
「で、結果は出た?」
「さっきレベル10になったところ」
葉月が自慢げに言うと修平に笑われた。
「そうじゃなくて、白鴎堂の売り上げの話だよ」
勘違いに恥じ入り、葉月は状況を報告した。
「来店客は相当増えたと思う。でも七月の販売額は残念ながらほぼ横ばい。ま、これまで毎月前年割れだったことを考えると、下げ止まっただけでもプラス効果があったと考えていいんじゃないかしら」
「そうだとすると、マックほどの効果は出ていないってことだな」
修平の指摘に葉月はうなずいた。ニュースによると、マクドナルドは七月の来店数が一割増、売上高は前年同期比26パーセントの増加で、ポケモンGOが大きく寄与したのでは、と噂されている。
「それに、修平さんの出版社の『改訂ポケモン・ポケット図鑑』はすごく売れている! 店の正面に山積みにしておいたら、どんどんなくなってくれるの。特に、女性とか年配の人が買っているみたい。
ポケモン世代といえばまさに私達だけれど、子育て時代に子供のポケモンに付き合っていて馴染みがある、私達の親の年代かしら。子供が巣立った今、今度は散歩のお共に自分でもやってみようか、っていうことかもしれない」
葉月の言葉に修平もうなずいた。
「そうだね。この前一緒に新宿御苑に行った時も、孫とポケモンを楽しんでいるお年寄りやポケモンしながら歩いているオバサンがいたよね。
僕達は何でもネットで調べて済ませたりするけれど、あの世代の人にはやっぱり紙の本がウケるっていうことだろうな」
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