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「ねえ、一緒に食事する間、スマホをオフすることにしよう。私もポケモンしないって約束するから、修平さんも会社のメールみたりニュース読んだり、やめようよ」
修平は顔を上げると苦笑した。
「それってスマホ依存症にならないように、っていうこと?」
「それもあるし、二人でいるのにスマホとかテレビがないと話が繋がらないような関係、嫌じゃない」
葉月が付け加えると、修平はスマホをシャツの胸ポケットに仕舞って笑った。
「有森さんとだったら、別にスマホがなくたって話したいことはいくらでもあるさ。今日からついにアマゾンの電子書籍月額読み放題サービスが日本でも開始された。
うちも参画したが、これは実質的な価格崩壊。出版業界としては単体の販売ではなく購読料を主流とする購読者モデルの時代にどう収益を上げるか、真摯に考えなくちゃいけないわけだ」
葉月もそのニュースには気づいていた。アマゾンから収益配分を受けられる出版社や著者はともかく、リアル書店にとっては更なるライバルが増えたことになる。
これまで日本の電子書籍価格は紙の本の価格より少し割安という程度に高止まりしていたが、月額980円で読み放題ということは、ヘビーなユーザーにとっては大幅な値下げに等しい。
葉月は無言でワイングラスに口をつけてから、修平を振り向いて強気な笑みを浮かべた。
「これまで図書館なんか使わなかった人が、読み放題サービスのおかげでスマホ図書館を持ち歩けるようになった、みたいなわけよね。
でもこれまでだって割安な電子書籍はあったしタダの図書館もあったし、本を即日受け取れる便利なネット書店だってあった。前にうちの古株書店員の谷口さんが、業績低迷の犯人探しをしている書店は潰れる、って言っていらした。
だから読み放題サービスが導入されたからって、別にどうということはないわ。新たな脅威ではあるけれど、そんなことでグチってはいられない」
「それでこそ僕の有森さんだ」
修平が軽口を叩いたので葉月はワイングラスを掲げてみせた。
「今夜は仕事の話はここまで。ねえ、今度はどの映画、観に行く?」
「やっぱり『シン・ゴジラ』だろうな」
「賛成!」
前評判が高い新作映画の封切りに合わせて強化したお茶の水店のゴジラ関連本の棚をふと思い浮かべ、葉月は急いで頭を振った。
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