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なるほど、とうなずきながら、葉月はにわかに元気を取り戻した。
その予想が当たるとすると、まだ出遅れてはいない。販促方法を急いでまとめ上げ、明朝のミーティングで提案しよう。しかし、学校が夏休みに入る7月20日頃にはポケモンGOがリリースされると噂されているので、時間は、ない。
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「スマホでゲームしている客を集めて販促と言ってもねえ。テレビのニュースではアメリカでゲームに夢中になった人が車にぶつかったり崖から落ちたり、とか危なっかしい話が多いみたいですよね。
スマホに熱中している客が本を選んでいる客にぶつかって来たりとか、問題が起きる懸念が大いにあります」
先輩書店員小寺のもっともな懸念は想定内で、葉月は勇んで応えた。
「現在のお茶の水店の客の入り方では客同士が衝突する懸念はないと思いますが、うまく集客できて大混雑になった場合には、周囲に注意を払ってプレーするよう、天井からポケモンの垂れ幕を張ってお願いしましょう」
ミーティングでは必ず発言する梶田が口を挟んだ。
「有森君、それって店内にポケモンポスターでも張ろうっていうわけ?」
葉月は梶田を振り向いてうなずいた。
「はい。それも一枚や二枚でなく、天井や壁をポケモンで飾るんです。白鴎堂お茶の水本店ポケストップ、と大きく書いて、お客様のフォトコンテストを開催するのはいかがでしょうか。
いかにも本屋なポケモン写真、を幅広く応募して盛り上げるんです」
「おいおい、うちは写真撮影禁止だぞ」
梶田の指摘に葉月は彼に向き直った。
「先ずは、その「写真撮影禁止」を撤廃しましょう。ポケモンが出没するか否かに限らず、客にSNSで本を販促してもらうには写真が必要です。この書店でこの本を買った、と積極的にツイートしてもらう。
白鴎堂のイメージアップのためにも、客にファッショナブルな本屋の写真を撮ってインスタグラムで広くバラ撒いてもらう。
これまで書店サイドで写真を撮影しツイッターやフェイスブックで発信してきましたが、それでは限界があります。口コミを強化するには客を巻き込むことが必要です」
「しかし、本や雑誌を購入しないで写真撮影することはその本や雑誌の権利を侵害することになる。デジタル万引きに等しい行為だ」
梶田の重ねての指摘に葉月が答えに詰まっていると、小寺が助け船らしきものを出してくれた。
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