『僕は君の名を呼ぶ』

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「丼池君。工事が終わって、生葬社が再開できたら、戻って来るから。それと、潜入捜査になるので、俺と遊部君とは頻繁に連絡は取れない。建物の工事の許可は儀場が出すから、連絡を取り合ってね」  百舌鳥と俺は、生葬社が再開するまで、この土地を離れることになる。  見学が終わると、ここに引っ越すという確認はできた。島としか分からないが、あれこれ考えても仕方がないであろう。 「丼池君、いい職場を作ってね」  家に帰ると、荷物をまとめる。美奈代には、簡単に説明していた。要は、単身赴任と同じであった。 「必ず帰って来てね」  美奈代に幾度も念を押される。 「はい」  又、ここに来てもいいのだろうか。今度こそ、俺はアパートを借りた方がいいのではないのか。でも、帰れる日が決まったら、その時決めることにしよう。 「昂……向こうで住む場所が決まったら、必ず連絡する。来られたら、ここに来る。それまで待っていて」  今、二日までは昴の起きている時間も増えた。でも、二日で俺は戻って来られないであろう。 「……はい」  昴は、じっと俺を見ていた。  荷物と言っても、家具は持ってゆけない。キャスター付きのバッグ一個と、リュック、それで移動先に向かう。  早朝であったので、皆が寝ている間に行くと言っておいた。別れは、既に済ませている。  それでも、玄関に重箱があり、ずっしり重かった。重箱の上には、メモが置いてあった。 『遊部君、頑張ってね。これは道中で食べてね』  美奈代に深く頭を下げる。  丼池と昴には、寝ていろと言っておいたが、二人とも玄関を出たら外に居た。 「俺も、昴のように名前を呼びつけにして欲しいです」  丼池は年下でも、生葬社では先輩であるので呼びつけはできないであろう。 「いや、丼池君。先輩だからね……」 「でも、ここは家です。会社ではありません」  それは、そうであるけど。  泣きそうな丼池は、大きな犬のようであった。大きな、熊かもしれない。 「行ってきます。昴、成己をお願いね!」  手を振って走ると、二人が笑顔で見送ってくれた。 『僕は君の名を呼ぶ』 了
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