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古い民家で、中が暗い。廊下は、玄関から真っすぐに伸び、両脇に部屋のドアがあった。最奥部の横から、二階への階段が伸びていた。廊下は、ワックスも消えて、光のない木をむき出しにしていた。しかも、歩く度に、ギシギシと廊下が鳴っている。
「お茶……」
俺は、咄嗟に横の扉を開けて、お茶のセットを持ち出した。お茶のセットを、反対側のドアを開けて、和室の居間の卓袱台の上に乗せる。
「おせんべい」
再び、キッチンに行くと、棚の中からせんべいの袋を出すと、菓子入れに色々と詰め合わせて、同じく卓袱台に乗せた。
「和菓子も……」
今度は冷蔵庫を開き、ラップしてあったおはぎを出すと、少し温めて卓袱台に乗せた。
「先に、二階に行って案内をしたいけど」
俺は、階段で二階に上がり、窓を開けて庭を見た。
「遊部君、ここに出る子供のようだね」
茶封筒の中身は、怪談小説であった。夏の怪談特集の原稿だという。そこに、ここの家とそっくりな建物が出てきて、せっせと小説家の世話をする幽霊が書かれていたのだ。
小説家は書く以外が全くダメで、お茶飲みたさに必死にやかんを探す。キッチンに知らない少年が出てきて、ポットを指差す。でも、小説家は、ポットの使い方を考えていた。そこで、少年はポットで茶を煎れてやる。そうやって、幽霊に面倒をみられる小説家の話であった。
小説では、少年になっていたが、実際は性別が分からなかったと、コメントがあった。
この家には初めて来たが、小説の影響で、よく知っている家のような気がしていた。
幽霊の少年が、自分も幽霊であるのに幽霊が出そうで怖いという廊下も、そのままであった。
二階には、少年が毎日のように月見している縁側があった。
少年には生前の記憶が無かったが、月を見ては泣いていた。
「これが、そうか……」
喜島の説明を聞かなくても、窓から見える木の位置や、建物の配置でどの縁側か分かる。階段を登ってすぐの部屋に、庭の主の木が良く見える縁側があった。この庭の主の木というのは、少年が呼ぶ庭の木で、この家を建てる前から存在していたと少年が告げる。
「ここで、月見か……」
坂の途中であるせいか、下には各家の屋根が連なっていた。だから、空が広い。縁側に腰掛けてみると、主の木を探してみた。
主の木は、この土地が痩せていたので大きく育てなかったとあったので、小さな木なのであろう。
「あれか」
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