『僕は君の名を呼ぶ』

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 古木の木が、庭の隅にあった。つい手を振ってみると、木が揺れて答えた気がした。  何の木であろうか、枝の感じが、どこか梅の木に見える。 「すごいね」  喜島が呟いていた。何が凄いのだろうか、俺は振り返って喜島を見た。  すると、今度は後ろで物音がして、俺は慌てて窓の外や下を見た。すると庭では、女性が買い物袋を落として、悲鳴を上げていた。 「きゃああ」  何かあったのだろうか。俺が慌てて階下に行くと、余計に悲鳴が大きくなった。 「多香美さん、この人は生葬社の調査員ですよ」  一階の玄関の横から庭に抜けて、小さな道があった。多香美は、買い物の荷物を台車で台所付近まで運んでいた。その途中で、俺の姿を見つけたらしい。  俺が、散らばってしまった食材を拾い上げていると、喜島も手伝おうとした。しかし喜島は、拾っては、袋に入れようとして落としてしまう。本当に、不器用な人らしい。 「父さんは、邪魔ね」  多香美は、喜島を父さんと呼び、喜島はしゅんと小さくなった。 「本当に幽霊ではないのね?」  生葬社の社員証を見せようとして、公共のほうが良いかと、運転免許証を見せた。死んでいては、免許の更新はできないであろう。 「あら、大型も持っているのね」  昔、運送会社でバイトをしたのだ。 「はい。俺は、生葬社からきました、遊部です」  生きていると分かると、多香美は勢いよく喋り出した。  喜島の妻、多香美の母親は、ここが幽霊屋敷だと言って近寄らないのだそうだ。多香美も、幾度も家の中で白い影を見た。他に、疲れていると、いつの間にか、お茶が出ていたりする。この父親は、本当に不器用で、多香美に茶など出せないという。  そこで俺も、喋りまくる多香美が、時折、咳をするのでお茶を煎れてしまった。小さな居間で、ここにはテレビもなかった。多香美は、喋り続けながら茶を飲み、ふと俺を見た。 「本当に幽霊ではないの?同じ味のお茶よ」  それは、同じ茶葉だからなのではないのか。  多香美の話によると、喜島は趣味で小説を書いていたが、賞を取ってしまい、しかも、テレビ化になってしまった。喜島は、それが原因で公務員をクビになった。喜島の妻、多香美の母親は、収入ではなく安定が重要という人で、夫婦は離婚しそうになったという。
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