『僕は君の名を呼ぶ』

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 喜島は離婚に備えて、この家を購入し別居の夫婦となったのだが、むしろ離れた事で仲が良くなってしまった。喜島夫婦は、電話とメールで連絡を取り合っている。無言で過ごしていた、自宅よりも話すようになったらしい。 「ここの幽霊は、きれいな子なの。白い影だけど、本当に瞬間、泣きそうな顔が見えたりするのよ。遊部君にそっくり」  喜島の面倒を見るなど、幽霊ではないであろう。やはり、異物(インプラント)の仕業であろうか。  異物(インプラント)であるとすると、この家か、庭の木のような感じがした。 「ボクもね、この家に住んでいた子なのかなと、色々と調べたのだけれどもね」  この家の前の持ち主は、子沢山の会社員であった。五人を育てると、老後をこの家で過ごしていたが、末の子が自営業を始め、手伝うために引っ越しした。その家族には、若くして亡くなった者はいない。  その前の持ち主は、この家を建てたのだが、転勤で三年程しか住んでいなかった。九州の方で、今は息子と同居している。  この家ではないとすると、やはり庭の木なのであろうか。 「この家が建つ前は、ここは何であったのでしょうか?」 「ここは、畑だったよ。庭の木が目印でね」  古い白黒の記録写真を見せてくれた。やはり、元教員で作家のせいなのか、あれこれ調べる癖があるようだ。ダンボール箱一杯に、資料が入っていた。  ここの駅も古いようで、昭和の高度成長期のような写真には、荷物を持つ多くの人が駅の周辺に居た。駅から見える、急坂は今と変わらないが、土の道の両側は畑しかなかった。  でも、その道のバス停らしき場所に、ここの木と似たものがあった。 「バス停ですか?」 「そうだね。それが、ここだよ」  バス停には、坂中と書かれていた。坂の真ん中あたりという意味であろうか。  でも、畑の中なのに、バス停が何故あったのだろうか。 「乗り降りする人がいたのでしょうか?畑の中で……」 「この家と逆側に道があってね、それから、さらに行くと、工場があった。工場までバスに乗ると運賃が高いので、この坂だけバスに乗り、後は歩いたと聞いている」  坂の途中であるが、ここから工場に歩くと近道になる。これから働くという時に、この急坂はきつかったのだろう。
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