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俺が泣いているというのは、丼池家にも伝わっていた。美奈代が自宅にいない上に、留守電には京都に行ったと入っている。丼池の携帯電話に、美奈代から俺を泣かすなとも入っていた。
俺の仕事用の携帯電話には、美奈代からの留守電に、綾瀬が逐一報告してくれたとあった。
「綾瀬!」
丼池も百舌鳥もいたが、綾瀬の名前を呼んでしまった。
「何だ?」
綾瀬は薄っすらと壁に浮かんだ。
「俺は、泣いていない!」
「…………」
綾瀬が百舌鳥の顔を見てから、丼池に何か訴える。
「綾瀬さんの言う通りです。遊部さん、ずっと……泣いていますよ……」
丼池が困ったように、呟いていた。
綾瀬は何故、丼池家にまで伝えたのだろうか。
そこでドアが開くと、人影が見えた。俺は、有り得ない人影に、二度見してしまった。
「お邪魔しますね」
「どうして?ここに?」
そこには美奈代と昴が立っていた。
「新幹線が止まっているからね。高速で来たのよ。道具も持ってきたのよ」
昴が、すごい勢いでパーツを組み立て始めていた。
「それから、遊部君には、人形の顔を造るのは無理。人形は顔が命なのよ。でも、遊部君の顔が理想ね。私が顔を造っておくから」
何か、俺は人形の顔なのか。俺は、美奈代に指揮されるまま、図面のパーツを丼池と造り続けてしまった。
そして一晩が明けると、そこには、一郎丸が復元されていた。
「魂が戻ってくれば、完成だな」
初太郎の言う通りで、一郎丸は目を開かない。
「一郎丸!一郎丸!……」
顔は、美奈代の作で、やはり俺に似ていた。どこが似ているのかと言われれば、似ていないのだが、全体的に似ている。
「一郎丸!」
振ってみても起きる気配はない。逆さまにしてみると、かおりはパンツまで作っていた。百舌鳥の好みであるのか、パンツは真っ白な生地に半ズボンのような長さがあった。
殴ってみようとしたが、自分に似ているので殴れなかった。
「一郎丸!」
「うるさい!俺は眠っているだけだ!」
一郎丸が目を覚ますと、俺を罵倒していた。
「しかも、これは何だ!」
何だと言われても困るが、十四番まで揃っていて圧巻だろう。
「……兄妹、揃いました」
「俺達、妹はいない!」
真っ赤な着物をきせてしまった物があったが、女の子ではなかったのか。あんまり可愛いので、女の子の人形もあるのかと思っていた。
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