『僕は君の名を呼ぶ』

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 工作室には、所狭しと人形が並んでいた。図面があったので、全部、作ってしまったのだ。 「しかも、二郎丸は双子か!」  二郎丸まで作ってしまったのだ。 「一郎丸、頭領を頼むよ」 「分かっている。それと、遊部」  一郎丸が小声になったので、耳を近づけてみた。 「ありがとう、直してくれて。ありがとう、泣いてくれて」  泣いてくれてありがとうというのもあるのか。 「ありがとう、名前を呼んでくれて。俺達は、名前を呼ばれる事が、何よりもうれしい」  それが聞こえてしまった美奈代は、皆に大きな名札を造っていた。漢字にはフリガナも添えられている。首に掛けられるように、紐をつけていた。昔の迷子札のようだ。 「まさか、あれを付けろと言っているのではないよな?」  恐る恐る、一朗丸が俺を見る。 「俺は、美奈代さんに逆らえない」  一郎丸は美奈代に、名札を首から下げられると、固まって人形のフリをしていた。 「さてと、丼池君。美奈代さんを観光に案内していいから。それから、戻って来なさい。遊部君はどうする?」  美奈代は車で来ていたので、京都から車の運転も一人では辛いであろう。そう考えると、一人で運転してきてしまった、美奈代のパワーは強い。 「俺も、美奈代さんと帰ります」 「そうか。では、俺はかおりと帰るか」  ニコニコしている百舌鳥は、かおりと二人で幸せそうであった。二人は新婚であるので、何をしても楽しいのかもしれない。 「美奈代さん、疲れていませんか?仮眠しますか」 「そうね。息子が泣いている!で、ちょっと張り切り過ぎちゃったかな」  美奈代は、自分の宿泊の予約をしていた。 「私、車は疲れたから、もう嫌。新幹線が動くのを待って帰るわね」  宿泊をとっているので、すぐに帰ろうとはしていない。  俺は、美奈代に感謝して深く頭を下げた。 「昂、行きたい所はあるか?」  昴も来てすぐに帰りは可哀想だ。でも、俺と離れていると、昴は眠ってしまうので、一緒に帰るしかない。 「比叡山」  ポツリと昴が呟く。俺達は、比叡山に行き、それから高速に乗った。高速のサービスエリアで仮眠しながら、交代で運転して家に帰った。  爆破された生葬社は、爆破と言う事が問題であったのか、商店街からは追い出されてしまった。  百舌鳥が候補地を幾つかピックアップしていたが、生葬社に制約があって、なかなか見つからない。
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