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別れと出会い
「スナック菓子も食べたから喉乾いたんでしょ?」
呆れながらもそんなイナリを姿を見ていると何となく落ち着く。
ペットセラピーにしては特殊な犬すぎるが、天真爛漫なイナリを見てると、沈んだ顔が明るくなる気がする。
「そうだよね、おめでたい事なんだから喜ばないとね」
水を飲み終え満足そうな顔をして毛づくろいを始めると、ペットボトルをバックに詰め散歩コースを歩き出す。
「――はあ?」
さっきまでのテンションとはうって変わり、ゆっくりと私に歩幅を合わせ……と言うよりむしろ若干後ろにいる。
「スタミナ切れたの?何そのやる気ない感じ」
励ましの時間は終わりましたという表情で、道路が熱いのか抱っこをしろと言わんばかりだ。
「はいはい、肉球ヤケドしたらいけませんからね王子」
手を伸ばすとタタッと駆け寄り腕に収まったが、こうなると誰の散歩なのか分からないのでコンビニに方向転換した。
「王子様、今日は何がよろしいですか?暑いので牛乳プリンにしますか?」
イナリを抱えてる腕からジンワリと汗が滲んでくる。
こんな暑い日に毛皮を抱えているのと同じなので、通気性は悪いに決まっているが、降りる気配を全く感じられないワガママ王子は澄ました顔をしていた。
首元のタオルで汗を拭きながらようやくコンビニが見えてくると、ラフな格好をした洋が自動ドアから出てくる所に蜂合わせてしまった。
「あれ?リーダー達とどっかに行ったんじゃないの?」
「ううん、少し雑談をして別れたよ。百合達も社長から聞いたよね」
不意打ちで質問をされ、ドギマギして言葉が上手く出てこない。
イナリは自動ドアから漏れるクーラーの風に反応し、ピョンと腕から降りるとマットが敷かれている少し手前で涼んでいた。
「散歩帰りだよね?冷たいレモン水あるけど飲む?」
「有難う……」
天使の微笑みのような柔らかい笑顔は、いつもの洋と同じ感じだ。
こんな時に気の利いた言葉も出てこない私は、告白をされて困っている純情男子高校生のようだ。
『去る人に気を使わせて、何やってるんだ私は!』
洋に促されるようにコンビニのベンチの前に二人並んで座った。
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