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「あの、寂しいけどおめでとう!洋ならきっと大丈夫」
「有難う…でもね、刻印消されるとイザリ屋と縁が切れてちょっと複雑な気分。悟も社長も皆も笑顔で見送ってくれたから余計に」
言葉を切った洋が涙ぐんでるのは様子で分かっていたが、見ると釣られそうなので極力我慢した。
「アイスでも買ってこようか?餞別代わりじゃないけど!」
勢いよく立ちあがろうとすると、手を掴まれてギクッと動きが止まった。
「社長俺が身一つでここに来たからって、知人のツテで新しい住居も見つけてくれて……俺まだ恩を返せてないのに凄く親切にしてくれてっ……」
いつも泣き事や愚痴も一切言わず、ニコニコしてる洋に綺麗な涙を見せられると、隣にいる私がブサイクな泣き顔を晒す訳にいかないと逆に気合が入った。
「どうしよう……今まで良くしてもらったのに決心鈍ってくる。俺もっと働いた方がいいかもしれない」
顔を押さえる洋に、汗を拭いたばかりで申し訳ないが首のタオルを外して渡した。
「いーよ、キツネも洋が頑張ってるの知ってるし、元は十分取れてる筈だよ。あの死神がそこまでするのは洋の人柄だよ……タオル汗臭かったらゴメンね」
「プッ!なんかさ、男女逆じゃない?」
優しい洋は『臭っ!』なんて一言も言わずに涙を拭って赤い目をしている。
無理して笑っているのは分かっていたが、ここは励ます為にも笑い話にキツネをフル活用するしかない。
「もし戻りたくなってもキツネは怒らないよ……てか刻印消して又復活するかはよく知らないけど」
「うわっ無責任発言!でも悟にも申し訳なくて」
段々と気弱になっていく洋に、私は沈黙を作らない事しか思いつかなかった。
「女にもフラれてナーバスになってるだけだよ!洋は自分の決めてた道があるんだし、振り向いたらダメ。私は他にやりたい事ないから無理せず仕事を頑張ってみる!」
「そっか、百合達が居ればきっと大丈夫だよね」
「いやそれは微妙だけど、私は洋みたいに寛大で温和でもないから」
さっきまで泣いていた洋が、急に何かを思い出したように肩を震わせていた。
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