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涙が止まったのは嬉しいが、この笑いは私と妹に向けられてると分かっている。
恐らく『般若』と『大蛇』に囲まれて悟は大変だとでも思っているに違いない。
今日だけは特別に目を瞑って、洋には明るくこの場を離れて欲しいが笑いはエスカレートし、腹を抱え出すのでさすがに注意を入れた。
「笑いすぎだって!確かに洋みたいに穏やかなメンバーは居ないけど」
「ご、ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど、止まらなくなって」
涼み終えたイナリが膝に登ると、洋はスルメの袋を開けて一本近くに置いたが、ツンと澄まし顔で無視していた。
「吠えないけどやっぱ俺からだと食べないな、でもその顔もなんかツボかも」
笑いがぶり返したのか小刻みに肩が揺れ始めていて、イナリは他の人には懐かないがイヤシイのはドラム缶譲りだ。
どんな顔してるのか覗きこんでみると、よそ行き面を装っているがよだれが少し出ていた。
「プッ、食べたいんじゃん!」
思わず洋と一緒に笑っていると、イナリは『早くそれお前がよこせ』というように顔をジッと見てきた。
イナリの口元にスルメをよせると一瞬で消えてしまった。
「――早っ!」
二人の声が揃うと洋は微笑みながらスルメの袋を全部渡してくれた。
「いいよ自分で買うから、これオヤツに買ったんでしょ?」
「悟が好きだから買っただけ、気にしないで」
リーダーの為に買った物を平気で食べているなんて、ドラム缶似をどうにかしたいと真剣に考えてしまう。
「やっぱり買って返すよ、ごめんね……なんかこんな感じで」
「ううん、笑わせてもらってむしろ嬉しかった。俺……明日にはここ出るから」
「――えっ!?」
突然の知らせに困惑していたが、出発はまだ先だと思っていたのでこのテンションを保つ自信がない。
「決心鈍るからサッサと行く、発つ鳥後を濁さずっていうでしょ?」
無理して言ってるのは分かるけど、どう答えたらいいのか困り顔を引きつらせていた。
「送別会くらい……リーダー達とすればいいのに」
「しんみりしたのは好きじゃないから、社長は一番のファンになってくれるらしい」
私ですら仲間が居なくなるのは寂しいし残念で仕方ない。
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