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今までは人間関係がストレスで仕事が続かない事も多かったが、今回は内容は別としてその心配がないだけでも救われていた。
洋の変わった人柄と大らかな性格、男性という事もあり女性だけの職場より気は楽だと思ってた矢先の話だ。
「じゃあ、私は五番目位にファンになるよ」
「え――っ、微妙!」
私達の暗い道のりに明かりを灯してくれた人を、寂しい顔で見送ってはいけない気がしていた。
「本当に有難うね。高校中退が恥ずかしかったけど、通信制を教えてもらった以上、絶対にやり遂げるから」
「うん頑張ってね、まぁ……頑張らないといけないのは俺だけど」
洋が立ち上がり歩き出すと背中をイナリと見つめていたが、姿が見えなくなると涙がツツーッと流れていた。
イザリ屋は変わっている人が多いけど、素の自分で居られる場所をようやく見つけたと思えた。
友達が転校して悲しいとか、職場を辞めて寂しいなんて一度も思った事はないけど、洋が新たな気持ちを教えてくれた気がした。
『明るい道しるべ』と『寂しい気持ち』
社会に出てからの勉強として、心に刻んでおこうと決心しタオルで顔を拭った。
このままスンナリお別れするのは何だか味気ない気もする。
かと言って何かをプレゼントと言っても、洋の女子力の高さ相手に何をあげたらいいのかも迷う。
そもそも下手に残る物を渡すのは、イザリ屋の痕跡を消した彼にとって良くない事かもしれない。
考え事をしながらイナリを入り口に繋ぎ、まずはコンビニで買い物を済ませ自宅に戻った。
妹の部屋に行き、さっきまでの話を伝えると『なるほどね』というように頷いてくれている。
「プレゼントは渡さない方がいいかも。洋も皆に申し訳ないって気持ちがあって、そっと去りたいみたいだし。私らに出来る事と言えば、映画を見に行ってあげたり陰ながら応援する事だと思う」
こういう相談はいつも妹にしていて、冷静で客観的に考える事が出来るし洞察力もあり大人な一面もある。
すぐに気持ちを切り替える事は出来ないけど、いいお別れだと思うしかなかった。
ヘルプを終えた私達は何日かお休みなので、勉強や日用品調達に駆り出されたが、その他は家にこもって時代劇や海外ドラマを見て過ごしていた。
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