別れと出会い

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「ワオンが助けられたのがきっかけでイザリ屋に入りたいとか言い出しおって、茶を飲ましたら色々出てな」 「ワオンさんはどの刺繍に入るんですか?」 「初めから複数掛け持ちで、既にこの数日で黄色や紫は取っておる」 開いた口が塞がらず彼を見ると、ニコッと笑いながら小さく手を振られた。 「和音(かずお)だけどね、百合さん達みたいに逞しくなりたいから無色チームメーンで働かせて欲しいとお願いしてるんです」 「いやいや、既に刺繍取ってるから全然強いよ?それこそ赤刺繍に入って八雲さんに鍛えてもらえばいいのに」 お金も稼げるし、私達みたいに何かあれば弱音を吐く貧乏人よりも将来も有望そうだ。 「俺では無色に入れないですか?」 残念そうな表情に思わずフォローを入れたくなる。 「いや勿体ないっていうか、どう言えばいいんですかね?社長」 「うむ……ワシは姉妹に手を出さないかが心配じゃ、なんせ照ちゃんの息子だし!本当は紫か銀刺繍に入ってもらいたいんだがの」 ポッと一瞬顔が赤らんだが、すぐにいつものワオンさんに戻ると隣に移動してきた。 「銀まで取るつもりはまだありません、それに百合さんの犬螺眼について一番情報持ってますよ?」 「えっ、マジで!」 彼は照ちゃんと一緒にずっと犬の世界で暮らして来たので確かに知ってるかもしれない。 以前、犬の世界で皆で温泉に入った時も照ちゃんがキツネの耳に入らない凱の情報を掴んでいると言っていた。 凱についてもイザリ屋メンバーまで悪い印象はないようで、私に近い意見も言っていた。 「あの宜しくお願いします、色々教えて下さい」 「僕の知ってる事はお話します」 無意識に表情が明るくなっていたようで、妹達は聞こえるように相談し始めた。 「社長の立場なくない?あんな嬉しそうな顔して、私だってヘコんでる般若の為にトレーニングに連れ出したのにさ」 「だよね~!新参者が大きな顔しちゃって、犬の世界に住んでたんなら知ってて当然じゃな~い?」 どうやら私はキツネ二匹の機嫌を損ねてしまったようだ。
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