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巻き込まれて
―――それは、ある日の放課後のこと。
いつもと変わらない授業、いつもと変わらない担任の話。そして、いつもと変わらない放課後になるはずだった。
あいつに声をかけられるまで。
「雪、今日は一緒に帰らない?」
帰ろうと教室を出ようとした時、後ろから聞き慣れた声に呼び止められ俺は足を止めた。内心出そうになるため息を堪える。
・・・厄介なのが来たな。
思わず顔を顰めて振り返れば、幼馴染が笑みを浮かべながら立っていた。
一条隼人。
俺の幼馴染......と言っていいのか微妙な頃に知り合ったが、それからは長い付き合いになる。
容姿は少し癖毛の亜麻色の髪に、明るめの茶色の瞳。背は高くスラッとしていて、顔立ちも整っている。
まあ、かなりの美形だ。
頭もそんなに悪くないし、運動神経は抜群。
少し抜けているところはあるが......厄介なのは、こいつが天然人垂らしということだ。
だから周りにはいつも---
ん?
いつもならやたらめったらウザイ視線を感じるのに、今日は何もないな。
「・・・アイツらは?」
「アイツら?」
隼人は俺の問いかけの意味がわからなかったのか首を傾げたが、暫くして「ああ」と頷いた。
「彼女達なら今日はいないよ」
そうにっこり笑いながら隼人が言った彼女達というのは、いつも隼人にくっついてる女達のことだ。
毎日飽きもせず俺に敵意の視線を向けてくるんだけど・・・今日にかぎって全員いないなんて、嫌な予感がする。
「雪、どうしたの? さっきからボーっとして」
「・・・なんでもない」
考えすぎか。
俺は嫌な思考を振り払って、幼なじみと帰路についた。
―――思えば、この時から動き出していたのだろう。
決して、逃れえぬ運命の歯車が。
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