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帰り道。
「ね、ねぇ、雪。あれ・・・何かな?」
他愛もない会話――といっても、一方的に隼人が話しをして俺が相槌を打つだけ――をしながら歩いていると、隼人が突然足を止めて前方を指差した。
いきなりなんだと思いながらも隼人の指を追って前を見やると、道の真ん中に光り輝く魔方陣みたいなモノが忽然と存在していた。
え、何あれ?
驚きすぎて一瞬思考が停止しかけるが、先ほど抱いた嫌な予感はこれかと思わずため息が出た。
とりあえず魔法陣を良く見てみると、円の中に幾何学模様みたいなものや、何か文字みたいなものが・・・あれ、読める?
ゆう、しゃ・・・しょうかん?
なるほど。
これは勇者召喚の魔法陣か。
よくネット小説で見るような異世界転生系の。
まさか自分達の前にそんなモノが出てくるとは思わなかったが妙に納得がいって、隣に呆然と突っ立っている隼人を見やる。
まぁ、隼人だし。
無駄に正義感があって、お人好しのこいつなら可能性はなくはなかった・・・のか?
となると、俺は巻き込まれる可能性があるわけだ。
それは何としても回避したい。
などと、無駄に冷静な思考で考えた後、俺は今まで隼人に向けたことがない満面の笑顔を隼人に向けた。
まぁ、ほとんど前髪に隠れて見えないと思うけど。
「安心しろ、隼人。お前はこれから異世界を救いに逝くだけだ」
そう言いながら、俺は足早に隼人から離れた。
「え、何を言ってるの雪? ってか、それ安心できなぃ・・・うわぁっ!」
突然の事に固まっていた隼人が慌てて俺を追いかけようとした時、急速に近づいてきた魔方陣が隼人の足を呑み込んだ。
「ゆっ、雪! 助けてっ!!」
必死に手を伸ばし、助けを求めてくる隼人。
俺はそれに足を止めずに返した。
「悪いな、隼人。俺は巻き込まれたくない」
「やだよ! 俺、雪と離れたくなんかないよ!」
「隼人・・・」
「ゆきっ!」
思わず振り返れば澄んだ茶色の瞳が縋り付くような目で見つめてくる。それに、一瞬負けそうになったがグッと我慢する。
そして、無情に言葉を放った。
「俺はお前と離れたい」
「ちょっ、ずっと一緒にいたじゃないかっ!」
隼人は驚愕した表情で必死に訴えてくる。
ずっと一緒にいた。
そんなの腐れ縁で、たまたま長く一緒にいただけだ。これからも一緒にいるかはわからない。たとえ幼馴染だとしても、いつかは疎遠になる。
・・・なんて理由じゃ片づけられないよな。
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