第1話 町を訪ねて

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去って行く男たちの背中を見送った後、燕は地面に落ちている笠を拾った。 「これだから武士は…。」 誰にも聞こえないように小さく呟いた。 その時、彼女の周囲から拍手が鳴り始めた。 「いいぞ姉ちゃん!よくやった!」 「かっこよかったよ!」 「お姉ちゃんすげー!」 歓声が上がり始める。 町はすっかり燕の活躍で盛り上がっていた。 「あ、あの…その…!」 あまりの騒ぎに燕は焦った。 すると燕の前に先程の店主が歩み寄ってくる。 「ありがとう、お嬢ちゃん!助かったよ!」 満面な笑みで燕の手を握りながら礼を言う。 「い、いえ…お怪我がなくて何よりです。」 「お嬢ちゃんのおかげだ!どうだ?俺の店で団子でも…」 「あ、あの!」 店に招こうとする店主に燕は声で止める。 「ちょっと聞きたいことがあるんです!」 「ん?」 店主は首を傾げた。 その後、燕は店主の店であることを尋ねた。 「呉羽町までの道のりを教えてくれだと?」 「はい。」 呉羽町までの道のりに店主は顎に手を乗せる。 「んー…ここからだとあと半日はかかるだろうな。」 「そうですか…。」 幸い、ここは呉羽町からそう遠くないところであった。 「それよりお嬢ちゃん、「影狼組」には十分に気をつけるんだぞ?」 「影狼組?」 聞いたこともない言葉に燕は聞き返す。 「今、呉羽町だけじゃなくここまで噂になっている義賊集団らしいんだ。奴らは人の願いを聞き、その願いを叶えるためなら平気で人を斬る恐ろしいことまでするらしいぞ。」 「へ、平気で?」 それに答えるように店主はゆっくりと頷いた。 「それだけじゃない。その影狼組の中には腕の立つ忍と剣豪が集まってるんだ。」 「は、はぁ・・・。」 あまり聞かない組み合わせだった。 「だから誰も奴らには勝てないんだ。お嬢ちゃんのような強い奴でも、長年熟練を積んできた武士でも。」 「…それほど強い組織なんですね。」 「ああ、だから気をつけろよ。それでも世の中物騒だからな。」 店主の言葉に燕は苦笑いをするしかなかった。 それからしばらくし、燕は店を後にした。 「気をつけるんだよー!」 店主に手を振りながら呉羽町がある方向へ向かった。
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