第1話 町を訪ねて

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そして、町を出て呉羽町に続く道をひたすら歩き続けた。 「えーと…確かこの道をまっすぐ行けば別れ道があるはず。」 1度書いてもらった地図を開き、道を確認する。 その繰り返しだった。 もし道を誤ってしまったら違う目的地に着いてしまうのが怖かったからだ。 「とりあえずここで休憩しようかしら。」 近くにあった岩に座り、笠を外し風呂敷を開ける。 中にはおむすびが3つ姿を現した。 「わあ…おいしそう。」 先程の店主から貰ったものだ。 綺麗な三角に握られており、とても美味しそうだった。 「お米に感謝しなくては。」 胸の前に手を合わせる。 「いただきます。」 そしておむすびに手を伸ばす。 その時だった。 「…!」 一瞬何かを感じ取った燕はおむすびに伸びた手を引っ込め、風呂敷に仕舞った。 「誰かいるの?」 岩から立ち上がるとすぐに短刀を構え始めた。 人の気配がしたのだ。 辺りを見回しても人の姿は現れなかった。 (私の勘違い?いや、でもさっき確かに人の気配が…。) 自分の勘を疑そうになった。 だが突然、燕の足に何かが掴んできた。 「ひいっ!」 驚いた燕は悲鳴を上げる。 足元を見ると人の手が彼女の足首を掴んでいたのだ。 「は、離して!」 いくら振り払ってもその手は離してくれなかった。 「あ…あの…。」 今度はか細い声が耳に入ってきた。 燕は暴れるのをやめ、また足元を見る。 少し冷静になれたせいか手の正体を見ることができた。 燕の足首を掴んでいたのは茶髪で赤い着物を着た青年だった。 「あ、あの…た、食べ物を…」 青年はフラフラしながら立ち上がり、彼女を見下ろす。 彼の顔はとても青白くなっており、今にでも死にそうな顔色であった。 燕は青年の顔を見て体を震え上がらせた。 「いやああああ!お化けー!!」 「ぐふおっ!」 恐怖のあまり彼の腹に目がけて拳を飛ばしたのだ。 青年が少女の拳でゆっくり倒れたのは昼間のできことであった。
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